<イースタンリーグ:巨人6-5DeNA>◇5日◇横須賀
DeNAのエース今永昇太投手(29)が先発し、2人のルーキーが多大な影響を受けた。その貴重な試合を目の当たりにした。
◇ ◇ ◇
こんなについてる日もあるんだと、発表されたスタメンを見てうれしくなったが、試合を見て、その喜びは何倍にも広がった。
WBC決勝の米国戦で先発した最強左腕の今永が、調整登板になるのだろうが、先発マウンドに立った。対するは巨人のドラフト1位高卒ルーキー浅野(高松商)、そして受けるのはDeNAのドラフト1位高卒ルーキー松尾(大阪桐蔭)だった。
今永から打席で学ぶ浅野と、今永を受けて覚える松尾。そういう視点でこの試合はじっくり堪能させてもらった。
まず浅野だ。第1打席はインコース151キロ(トラックマン計測)真っすぐで空振り三振。第2打席はインコーススライダーで空振り三振。第3打席はインコースへのカット気味のボールを打って詰まった左飛。
はっきり言うが、結果はどうでもいい。打つに越したことはない。しかし、この日の浅野の打席での積極性は「学ぶんだ」というルーキーの姿勢として好感が持てた。
第1打席、初球148キロのやや甘いインコースをファウル。いいスイングだった。ファウルは真後ろに飛び、タイミングは合っていた。2球目は、初球よりも厳しいインコースへの151キロ。しっかりスイングしていたが、少し差し込まれていた。3球目はチェンジアップがボール、4球目はアウトコースまっすぐがボール。カウント2-2から5球目はインコース151キロに空を切った。難しいボールだった。浅野のバットはボールの下を振っているが、仕方ない。
むしろ初球、2球目を振っていくところがいい。この日の3打席、浅野はすべてのストライクを振っている。もちろん、惜しいスイングも、外されたスイングもあるが、充実した今永と対戦し、臆することなくスイングしていくその気持ちの強さは間違いなくプラスだ。
第2打席はチェンジアップと真っすぐのコンビネーションでカウント2-2から、7球目はこの日浅野に対して初めてのスライダーがインコースに決まり、空振り三振。第3打席は初球カット気味のボールを打って詰まった左飛だった。3打数無安打2三振。しかし、中身を見れば、この凡退は、浅野にとって替え難い経験になったと感じる。
一流ピッチャーに対して受け身になり、バットが出ず、スイングできずに打ち取られることなど、高卒ルーキーにはざらにあることだ。だが、浅野は果敢にスイングしている。今の自分のスイングでどこまで反応できたか、浅野は感じ取ったはずだ。それは、これから浅野が何かと比較する際、参考にする貴重な打席になっただろう。
では、受けた松尾はどうだったのか。こちらも濃い時間を過ごしていた。浅野の第1打席ではカウント2-2からの5球目、今永は松尾のサインに首を振ってインコース真っすぐで空振り三振に打ち取っている。私の推測では、松尾はチェンジアップのサインだったのではないか? 本人に聞かなければ分からないが、この打席での配球を見てそう感じた。
配球は結果がすべてで、抑えればそれが正解。打たれれば、いかに研究していても反省するしかない。今永と浅野の力量を比べた時、インコース真っすぐで押し切った今永の判断に異論はない。
松尾がチェンジアップのサインを出したと仮定した時、3球目のチェンジアップで浅野の反応を見て、三振を念頭にチェンジアップを選択したのかなとは感じた。これも1つ1つが松尾には勉強になる。一流投手の考え方、その日の調子などを加味して、ピッチャーはどう考えるのか。それを知る貴重なシーンだった。
そして浅野の第2打席で、今永は再びサインに首を振った。カウント2-2からの7球目、今永は浅野へ初めてのスライダーで三振に仕留めた。これも私の推論になるが、今永は右打者浅野に、スライダーでどこまでキレが出るのか試したのではないだろうか。
おそらく松尾はチェンジアップか、インコース真っすぐのサインではなかったか。第1打席でインコースでねじ伏せた今永のボールの力、キレを学習し、同じように封じ込めに行ったか、3球交えたチェンジアップでの緩急を考えたのではないか。調子が上向きの今永の思考は、非常に積極的に私には映った。
毎回イニングが終わると、今永と松尾は歩きながら話していた。今永は自分の意図を説明していたのだろう。4回が終わり、ふとベンチ内を見ると、2人はずっと話していた。このイニングで終わり、バッテリー間の反省かなと思ったが、違った。
5回も続投した今永は、この試合では投げていなかった少し抜いたカット気味のボールを投げて3者凡退。ベンチに戻ると、今永は松尾へグラブを突き出し、まるで「いいぞ、オッケー」との雰囲気で、短く言葉をかけていた。
5回、今永は1度も首を振らなかったことを踏まえると、4回終了後に次の回はこういうテーマで、こう投げたいと話したと感じた。こうしたコミュニケーションから松尾が得る情報は、生きた教材になる。「こういう配球もあるのか」「ピッチャーの考え方はこうなのか」。松尾は財産にすべき5イニングだった。
なお、キャッチングについて私がこの試合で見た感想から指摘するなら、松尾は低めのボールを捕球する時、ミットが負けており、ミットが落ちているように感じた。低めのボールはキャッチングが一番難しい。1球でもストライクがボールになるとピッチャーは苦しくなる。
低めのキャッチングは重要で、だから我々もそこに注目する。松尾は若干、ボールを受けてから立ち上がるのが早く感じる。捕手の役目は受けることも大事だが、球審にしっかり判定してもらうためにボールを見せないといけない。立ち上がるのが早過ぎると、球審は見づらくなる。球審は上から見る。低めのボールならば、球審の視線が上からになる分、低めはより低く感じる可能性がある。この時期によく意識して、低めのキャッチングを練習してほしい。
ここまで細かい点も含めて評論を加えてきたが、左腕今永を軸に、若者2人が学ぶ、それがこの日もっとも大切なことだった。打ったとか、三振したとか、リードがどうしたとか、そうしたことよりも、この日の経験が2人にとってどれだけ貴重か、考えるだけで胸は弾む。
誰の記憶にも残る名勝負となった米国戦で先発した今永は、こうして敵味方関係なく、これから球界を引っ張っていくべき野手2人に無限大の刺激を与えた。
私のように、ファームの中に未来への可能性を探すものとして、こんなにもうれしい日はない。ぜひ、この日得た感覚を大切にして、厳しいプロの世界で勇気を持って戦ってほしい。(日刊スポーツ評論家)





