【169】<ファームリポート・キャンプ取材編>


中日の北谷キャンプを訪れ、根尾昂投手(23=大阪桐蔭)のピッチングを取材した。現状では1軍先発ローテーション入りを目指して競争の最中にある。気が抜けないキャンプ終盤を迎えつつあるが、ブルペン、グラウンドで練習に励むその表情には、これまでと違うものを感じた。


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私が評論家になってから縁あって、ずっと根尾を見守ってきた。キャンプ取材では北谷、もしくは読谷(2軍)で真剣に練習に取り組む様子を見て来たが、初めてかもしれない。楽しそうというか、のびのびと体を動かす、その姿を見たのは。

午前中に20球の調整投球を終えると、午後はグラウンドで汗を流していた。私はコーチ陣と少し話をしていて、そういえば根尾は何をしているのかなと、思ったが姿が見えない。

おやっと思ってグラウンドを凝視して、二塁で走塁練習をしている姿を見つけた。野手にまじっており、動きが完全に野手の動きに同化して気づかなかった。打球判断からのホームに戻る走塁練習だった。

野手と並んでもまったく遜色ない。確かにそれはそうだろうと感じた。ショートをやっており、まだ23歳。投手に転向して練習メニューに走塁練習はほぼないが、野手時代に培った判断力、スプリント力はいささかも衰えていない。

さすがに全力で走ることはなかったが、7割から8割で加速していくベースランニングには、能力の高さがにじみ出ている。大西外野守備走塁コーチが「代走で行くからな」と、声をかけると、根尾は「はい!」と元気よく返事をしている。投手になっても、そういう気質は何も変わっていないと感じた。

途中から高橋宏斗と育成の投手もまじり、3人で走塁を繰り返していたが、投手にまじると根尾の動きの良さは一層際立つ。

根尾は真剣かつ非常に積極的に動いていた。私がこれまでキャンプ地で見て来た根尾の練習している時の表情は、どちらかと言えば苦しそうだった。私の主観で見るから、そう見えただけかもしれないが、いつも苦悶(くもん)の表情を浮かべているシーンしか思い出せない。

それでも、弱音は吐かずに黙々と、一心不乱にバットを振る、そんな印象だった。この日、ブルペンを終えてグラウンドを走る根尾は、はつらつと走っていた。先発投手という目指すべきターゲットが定まり、そこへ集中している。充実していることが、伝わってくるようだった。

昨年は読谷で大きく制球を乱し、ブルペンにも入らない日々が続いた。1年でこうも劇的に変わるものか。そう驚きつつ、これもひとえに、真面目に、努力を怠らない根尾が自分で切り開き、チャンスをつかめるところまではい上がってきたからだと思う。

まだ、根尾は勝っていない。1軍で先発し、試合をつくり、勝利投手としてチームに貢献する。そのために、ピッチングも、バッティングも、そして走塁にも手は抜かない。

いよいよローテーションの枠を巡る競争はヤマ場に入る。今年も、根尾の戦いをしっかり見届けていきたい。(日刊スポーツ評論家)

打撃投手登板後、石橋と言葉を交わす根尾(左)=2024年2月4日
打撃投手登板後、石橋と言葉を交わす根尾(左)=2024年2月4日
中日対DeNA 3回表、力投する中日先発の根尾=2024年2月17日
中日対DeNA 3回表、力投する中日先発の根尾=2024年2月17日