監督と最後の夏は、一番長い夏にする。

 21日に行われた高校野球奈良大会3回戦。高円(たかまど、奈良)は奈良高専に勝利し、初めてのベスト8を決めた。チームを率いる松村泰宏監督(59)は「ここまで来たのも奇跡的な部分が多い」と穏やかな表情で笑った。例年野球部に入部する生徒は1学年数人程度。チームを作ることも難しいくらいだ。今年の3年生は9人だが、今夏が終わり3年生が引退すると、残る部員は5人。単独チームでの出場が出来なくなってしまう。「部の存続がかかっています。うちのようなチームでも戦えるというのを見せられた」と未来の新入部員にアピールした。

 今年で60歳になる松村監督は、今夏限りで監督を勇退することを決めている。高円は5校目の赴任先。今までの4校でも監督を務め、全校をベスト8以上に導いている「ベスト8請負人」だ。特に橿原時代には84年に県大会決勝までたどりついた。「最後の夏に勝てて良かったです」と、これで全5をベスト8に連れて行った。

 「強いチームが勝つんじゃなくて、勝ったチームが強いんだ」-

 この日先発した脇田晋乃亮投手(3年)は、練習後によく松村監督が口にしている言葉を明かした。「冗談を交えながらみんなに平等に接してくれる。熱心で熱い先生です」。脇田は人数が少ないと分かりながら、高円の野球部に入部を決めた。練習がたくさん出来ると思ったからだ。「弱いチームでも勝っていきたい」と言葉は力強かった。

 ベスト4をかけた次戦は、昨夏準優勝校の天理と戦う。松村監督は「当たって砕けろでやっていきたい」と真正面から挑むつもり。脇田も「奇跡を起こしたいと思います」と意気込む。松村監督と少しでも長い夏に-。「奇跡」はまだ続くかもしれない。

【磯綾乃】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)