3-2で迎えた7回2死二塁、龍谷大平安(京都)の代打・生水義隼(しょうず・あきと)内野手は初球を振り抜いた。「監督さんが信頼して出してくれて、しっかり応えようと思った」。打球は右前に落ち、一時同点の適時打になった。

 今年4月に亡くなった元広島のOB衣笠祥雄氏(享年71)に、生水はチームでただ1人、会ったことがある。中学1年生の時、アメリカで行われたカル・リプケン世界少年野球大会に日本代表として出場。衣笠氏は激励に訪れていた。「どんな人にもあいさつをされていて、自分たちにもあいさつをしてくれて、こういう人が上で活躍する選手になるんだと思いました」。衣笠氏からその時に聞いた言葉がある。「素直な人間が一番伸びる」「野球ができることに常々感謝して」。生水の心に深く刻まれた。

 14年のセンバツで、河合泰聖主将率いる龍谷大平安が優勝したのを見て、入学を志した。「テレビで見て、真っ白なユニホームで甲子園に出たいなと思いました」。入学してから衣笠氏が平安出身であることを知り、不思議な縁を感じた。

 衣笠氏が言っていた「素直な人間が一番伸びる」の言葉を、生水は再び聞くことになる。「平安に入って原田監督も同じことを言っていた。『平安の野球人』として教わっていくものだと思いました」。偉大な先輩の教えは、脈々と受け継がれていた。2人の言葉を胸に、生水は練習中のミスや失敗を素直にしっかり受け止めてきた。

 初戦で甲子園春夏通算100勝を達成し、2回戦は14得点で圧勝。京都勢春夏通算200勝をかけた3回戦は、あと1点で敗れた。「このユニホームで少しでも長く野球ができてうれしかったです」。100回大会での2勝と成長した姿を、空の上の衣笠さんに届けた。【磯綾乃】

平安(龍谷大平安)OBの衣笠祥雄さん(2011年8月5日撮影)
平安(龍谷大平安)OBの衣笠祥雄さん(2011年8月5日撮影)