延長10回裏、植田海が空振り三振に倒れた瞬間、思わず「う~ん」とうなってしまった。虎党、あるいはコイ党も同じだろうがこちらは勝敗以外のことを妄想していた。

勝った方がいいのか。それとも負けた方がいいか。ゲームが進む間、ずっとそれを考えていた。「勝った方がええに決まってるやろ」。虎党にはしかられそうだ。もちろん阪神にとってはそうだが頭にあったのは23日に今季初先発する藤浪晋太郎のことだ。

勝てば6連勝。指揮官・矢野燿大にとっては、昨季終盤、3位に滑り込んだあの連勝に並ぶ記録だ。そうなると23日は矢野阪神初の7連勝を目指す状況になる。負ければ5連勝でストップ。5割に逆戻りし、再び貯金を目指す最初の戦いでの登板となっていた。

プレッシャーがかかるのはどちらか。どちらが気楽に投げられるのか。考え続けた結果、思わぬ展開で今季初の引き分けとなったからうなってしまったのだ。

プロ野球選手初の新型コロナウイルス感染。遅刻からの2軍落ち騒動。右胸の筋挫傷といろいろあった上での今季初登板を前に思い出すのは昨年終盤に交わした藤浪との会話だ。

以前も別の場所で少し書いたが昨年限りで引退、退団した横田慎太郎についてだった。病魔により、引退を決断した横田のことを考えれば目が潤んでしまう。そんな話をしたとき、藤浪はこう言った。

「本当にそうですよね。慎太郎のことを思えば、練習がきついとか結果がどうだとか、そういうことは言えない。野球ができるだけでありがたいです」

いかにも現代っ子でウエットなこととは縁遠いと思っていた藤浪から、そんな言葉を聞いて、正直、うれしかった。その気持ちは今でも変わっていない。

コロナ禍の感染拡大第2波が押し寄せているとされる状況。大阪でも若者を中心に感染が広がっている。スポーツ選手に必要以上に何かを課すのはよくないが今こそ、藤浪が復活するタイミングかもしれない。ここはいっちょう、マウンドで躍動し、お立ち台に上がってほしい。

プロの投手にありがちだが藤浪もやはり繊細だ。投げる前の試合は周囲の想像以上に気になるもの。23日は勝てば1分けを挟む6連勝、負けても5割という試合になった。ほんの少し、藤浪に風が吹いているような気もする。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)