何と言えばいいのか。阪神にとっては終始、悪い流れが漂っているような試合になった。先発の秋山拓巳は眠れない夜になったかもしれない。自らの失策から走者を出し、痛恨の被弾。さらに失策で失点した。自責点0ではあるが、もちろん自分の責任だ。さぞ悔しいだろう。

秋山がまだ2軍にいた8年前だったか、いっしょに食事をしたことがある。そのときに言っていた言葉が今でも記憶に残る。

「1軍で投げる投手といってもね。僕は普通のどこにでもいるような投手にはなりたくないんです」

そんな意味のことを言っていた。どんな投手なのだろう。目にもとまらぬ速球派なのか。あるいは特別な変化球をマスターするのか。そんなことを思っていたこちらの予想は外れた。

「四球を出さない」投手として秋山は1軍戦力になった。制球難に悩むことが多い阪神投手陣にあって、これはめずらしいことだ。この日も7回まで投げ、無四球だった。フィールディングもいい。それなのにこの日に限って送球が2度も乱れてしまった。こんな皮肉なこともない。

そんな悪い流れはどこから来たのだろうか。結果論で書いて申し訳ないのだが、これはもう、1回の攻撃だと思っている。

前日の逆転勝利を受け、1番・近本光司はいきなり二塁打で出た。2番は最近、すっかりゴリラポーズで知られてきた陽川尚将だ。同じく2番スタメンだった前日は先制本塁打を放っている。よし。思い切って振れ! そう思ったら犠打のサインだった。最終的に死球で出塁したものの次打者・糸原健斗の犠打ミスもあってチャンスに無得点で終わってしまった。

巨人3戦目に大勝し、ナゴヤドームに乗り込んだ前日も逆転勝ち。どちらも打って勝ってきたものだ。さあ、きょうもいくで-。そういうときに手堅い方の作戦を選択するのか…と思ってしまった。

好調なときほど足元を見詰めなおすというのも、セオリーではある。それでも、とにかくガンガン勝っていかなければ話にならないという現状で、なぜそちらだろうと寂しかった。

野球に限らず、勝負の世界には必ず目に見えないものが影響する。だから勝負師は験担ぎをするのだ。いい流れが来ているときには、それに乗ってガンガンいってほしい。巨人はまた負けた。もったいない。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

中日対阪神 4回裏中日2死二、三塁、阿部に3点本塁打を打たれガックリの阪神秋山(撮影・森本幸一)
中日対阪神 4回裏中日2死二、三塁、阿部に3点本塁打を打たれガックリの阪神秋山(撮影・森本幸一)