さっぱり元気のないヤクルト相手に楽々の3連勝と見えたが、そうでもない。期待の奥川恭伸を相手に好機をつくりながら5回3得点。先発側からすれば、成功の部類に入るだろう。そんな展開だった4回の守備がポイントに思えた。

4回裏、ガンケル(中央)と話し合う梅野。左は大山(撮影・加藤哉)
4回裏、ガンケル(中央)と話し合う梅野。左は大山(撮影・加藤哉)

ガンケルが青木宣親に初の長打を許し、迎えた1死一、三塁のピンチ。打者はベテラン内川聖一だ。捕手・梅野隆太郎は右方向を狙う内川に高低、コースを使いながら懸命にリード。7球目で三振に切った。

さらに6番・坂口智隆は自打球を当てる不運もありながら粘る。ここもガンケルに対し、少しずつコースに要求12球目で二ゴロに切った。2人で実に19球を使ってピンチをしのいだ。

ガンケルは球数を気にする外国人投手にありがちなポンポンとストライクを投げたいタイプ。そこを我慢させて丁寧なリードを心がけた梅野も、応じた助っ人投手の姿もよかった。

99年8月、阪神野村克也監督(左)と試合中に言葉を交わす矢野輝弘
99年8月、阪神野村克也監督(左)と試合中に言葉を交わす矢野輝弘

この日は知将・野村克也の追悼試合だった。阪神の指揮官・矢野燿大は99年に野村が阪神監督に就任したとき、多くの薫陶を受けている。その1つが捕手として危機の場面を迎えたときの心構えだった。

「ピンチのときほど、投手の焦る気持ちを抑えて時間と球数をしっかり使え」。プロとして考えれば普通のことなのだが、それを言葉として表現する野村に矢野は納得している。

4回、あそこでヤクルトに1点でも返されていれば、楽勝の展開にはなっていなかったと思う。その意味でガンケル-梅野のバッテリーはよく粘ったと言えるし、梅野の捕手としてのレベルアップを感じる。

野村の代名詞としてデータ重視の「ID野球」が使われるが実は野村自身はあまり好きではなかったという。データを知るのは当然として、その日の条件を考え合わせ、どう生かすか。「ID」は考える野球「シンキング・ベースボール」のあくまでも1つの要素にすぎないからだ。

その意味で阪神監督時代に掲げた「TOP野球」が理想なのかもしれない。Tは知力、体力、気力のトータル。Oのオブジェクト・レッスンは実践ということか。そしてPは過程、プロセスを重視する姿勢だ。

昨年は日替わり捕手で巨人に3連敗したが、この3連勝、梅野はすべてスタメンマスクだった。矢野には矢野の考えがあるし、それを受けて梅野が伸びたと思えば、これは頼もしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

開幕3連勝を飾り、ファンに向かってガッツポーズで引き揚げる阪神矢野監督(撮影・野上伸悟)
開幕3連勝を飾り、ファンに向かってガッツポーズで引き揚げる阪神矢野監督(撮影・野上伸悟)