エラいことになってきた。03年に虎番キャップだった立場から言わせてもらえば、あのときのザワザワした感覚がよみがえっている。観客数制限で甲子園は比較的静かだが通常のシーズンなら途方もない騒ぎになっているはずだ。

難敵・森下暢仁を打ち崩しての圧勝。しかも佐藤輝明、中野拓夢のルーキー2人がお立ち台ときた。まだ4月中旬、始まったばかりではあるが“気配”はプンプンしている。

18年ぶり歓喜のリーグ制覇を果たした03年は開幕ダッシュではなかった。今季と同じ16試合を終えた段階では9勝6敗1分けの貯金3。怒濤(どとう)の白星ラッシュになるのはもう少し後のことだ。そして勝ち始めた頃、我々虎番キャップは闘将・星野仙一から怒鳴られる羽目になる。

強かった03年の星野阪神。虎党はもちろんだが日本中がザワついていた。他球団のファンは別にして多くの野球ファン、野球にあまり興味のない人たちにとっても楽しい出来事だった。一部の人間をのぞいて。

いわゆる「虎番記者」だ。勝てば勝つほど仕事量が増える。デスクからの要求は厳しくなる一方。どれほどパソコンをたたいても仕事が終わらない。「なんぼほど書くねん」。仕事とはいえ、負けるより勝つ方がいいに決まっている。そちらの方がうれしい。しかし毎晩、きつい仕事が続くと、そんな気持ちがつい膨らんできてしまう。

当時は遠征先で昼間に星野とお茶を飲んでいた。「お茶会」だ。野球の話はもちろん雑談もするのだが、その場で冗談交じりの“本音”が出た。「監督、ちょっと勝ち過ぎです。もうちょっとペースを落としてもらわんと、もうフラフラですよ」。これに星野は敏感に反応した。

「おまえら! こんなんで満足しとるんか! これまでどんだけ負けとったんや! こんなんで足りるんかい! オレはもっと勝ちたいぞ! もっともっと勝ちたいんや!」

怒鳴り上げられた我々は「失礼しました~!」と直立不動。気合を入れなおした。星野の有名なセリフ「勝ちたいんや」の“誕生秘話”だ。星野が生きていれば今も同じことを言うかもしれない。最後の優勝から15年も勝っていないのだ。今週残り4試合、3勝1敗以上で2桁貯金に達する。2桁貯金を引っさげて、来週、東京ドームに乗り込んでみよ!(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)