指揮官・矢野燿大だって分かっているのだ。「球場でもテレビでも、ボクたちは日本一の応援をしてもらっている」。そうあいさつした。12球団最多の観客動員数を持ち出さなくても虎党は独特で強烈だ。

最終戦、4万2539人観衆が甲子園を埋めた。ハッキリ言って、この試合に特に意味はない。クライマックスシリーズ進出は前日に決定している。大きな記録がかかっているわけでもないし、勝っても負けてもあまり関係ない。

そんな試合にこれだけの人が集まり、選手の一挙手一投足に喜び、嘆く。もちろん、どの球団にも熱心なファンはいる。それでも、やはりちょっと違う。あまり言うとイヤみだけど、本当にここまでファンが熱い応援をしてくれるチームはめずらしいと思うのだ。

身近にいるだろう。阪神の勝敗で機嫌の善しあしの違う人が。家族でもなんでもないのに。何をそこまで。そう思ったりする。それこそ理屈ではないのだ。

「1試合勝っただけであんなに喜んでなあ。ホンマに。毎年とは言わんけどせめて3、4年に1度は優勝して。あの人たちを思い切り喜ばせてあげたいよな」。生前の闘将・星野仙一がしんみり言っていた言葉だ。日本一になった楽天の監督を終えた頃である。

それが難しいのだ。理由はいろいろあるがとにかく勝てない。最後に勝ってあっという間に17年だ。そして優勝できない怒りは監督に向かう。矢野は4年連続Aクラス入り。失敗とは言えないがこの日も声援に交じってヤジが飛んでいた。

日本一熱い応援はときに日本一、厳しくなる。就任時は「頼むで」と期待するが最後は無残だ。前任者・金本知憲は最後に「阪神はこわい」と言っていた。偽らざる本音だろう。

最後のスピーチに臨んだ矢野は緊張していたはずだ。「開幕9連敗。貯金16」と口走った。もちろん「開幕9連敗。(最大)借金16」の言い間違いだ。ここ一番で正反対を口にする“痛恨のミス”かもしれない。でも、みんな分かっている。「貯金16」なら良かったのにな。それがみんなに共通する思いだろう。

矢野の口癖「全員野球」を体現するようにベンチ入りメンバーを使い果たす延長12回ドロー。これが矢野にとって甲子園ラストになるのか。それともCSを勝ち抜き、再びここに戻ってくる奇跡的続編があるのか。最後まで注目したい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)