「代打、キナミーッ!」。あの場面、指揮官・藤川球児にそう叫んでほしかった。そんな風に思えて仕方がないのである。

阪神が1点を追う形になっていた9回表。元猛虎戦士・加治屋蓮を攻め、1死満塁の好機だ。ここでベンチは途中出場していた梅野隆太郎に代わり、糸原健斗を代打に送った。残る捕手は栄枝裕貴1人。それ以降、栄枝に何かあれば万事休す。そこで糸原は押し出し四球を選び、同点に。「勝負に勝ったな」と思った。

うなったのはその直後だ。同点で、なお1死満塁。絶好の勝ち越し機で打順はそこまで4打数1安打の9番・遊撃スタメンの小幡竜平に回った。ここはいくぞ…と期待したのである。

ベンチに残っていた「満塁男」の存在だ。そう、木浪聖也である。すでに試合は総力戦に入っていた。繰り返すが梅野に代打・糸原を出した時点で、もう「明日なき戦い」に突入していたのだ。

念のために言えば小幡ではあかんということでは、もちろん、ない。結果として併殺打に倒れたから言うのでもない。仮に木浪が出ていても打ったとは限らない。だが、この展開は「見せ場」が必要だった。ここで木浪が出れば多くの虎党もベンチも「よっしゃ!」となったはずだ。

この球場で思い出す13年の日本シリーズだ。楽天監督だった闘将・星野仙一が巨人を最終戦で倒し、悲願の日本一に輝いたあの戦いである。その第7戦、3点リードの9回裏、星野は田中将大(現巨人)をクローザーとして登板させた。

敗戦となった前日の第6戦で田中は実に160球を投げ、完投負けを喫していた。普通はそんな起用はない。だが、そこが闘将だ。9回裏、星野は球審に「ピッチャー、タナカーッ!!」と叫び、投手交代を告げる。「審判に叫んでどないしますのん」と思ったが、そこは闘将の気合だった。

この両軍を優勝に導き、「いつかこの顔合わせで日本シリーズを」と夢見て、この世を去った星野である。状況から何から、この日とはすべてが違うけれど、あの気合を思えば、木浪をベンチに置いたままサヨナラ負けしたのはもったいなく思えて仕方がない。

「ファンがしっかり応援してくれている中で、選手たちも必死でやっていますから」。球児はそう話した。その通り。選手もベンチも必死に戦って、勝ってファンを喜ばせるしかない。(敬称略)

【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

楽天対阪神 7回裏楽天無死一、二塁、村林に右前適時打を浴びる桐敷(撮影・河田真司)
楽天対阪神 7回裏楽天無死一、二塁、村林に右前適時打を浴びる桐敷(撮影・河田真司)