熊本・山鹿(やまが)市民球場で12日、城北高校創立50周年記念招待試合が行われ、神奈川から招待された横浜が8対5で城北に勝利した。スタンドは城北の全校応援約700人、地元少年野球選手(40チーム、約600人)を含む約3000人の観客が集まり、春夏5度の全国制覇を誇る名門・横浜のプレーを熱く見守った。

 城北・末次敬典監督(66)は「勝機を逃さない貪欲な姿勢が特に勉強になった。今日、試合を見た九州の子供たちに、野球への夢と希望を持ってもらえたらうれしい」と話した。この招待試合は、6年前に横浜と練習試合をした縁がつながり、実現に至った。

時おり厳しいゲキを飛ばすも、温かいまなざしで試合を見守る小倉さん
時おり厳しいゲキを飛ばすも、温かいまなざしで試合を見守る小倉さん

■フリー転身3年。野球指導で全国へ


 かつて横浜の“名参謀”として知られた小倉清一郎さん(部長ーコーチ、現73)もネット裏から試合観戦した。小倉さんは、2014年、70歳を機にコーチを退職。現在はフリーとして、全国へ野球指導に回っている。城北でも年2回ほど臨時コーチに呼ばれ、横浜戦に合わせて1週間前から「前乗り」し、選手に助言を送っていた。1試合見ただけで選手の弱点を見抜く眼力は「アマチュア野球界のノムさん(野村克也)」と呼ばれ、野球のイロハを学びに行く野球指導者は多い。札幌第一や、日本体育大などは教えを生かして全国大会出場を果たした好例だ。

 小倉さんは数日前、アッパースイングに悩む選手を呼び、ゴルフクラブを振らせて修正した。その成果もあって、横浜の主力3投手から11安打5得点を奪う“善戦”となった。しかし試合中は「ダメ。全然ダメ!くちゃくちゃに打たれて負けちまえ!」と、愛情の裏返しが混ざった“小倉節”がさく裂。6回2死からディレードスチールを決められ4点を献上したシーンでは「(城北の)捕手が甘すぎる。もっと横に構えないからやられるんだ」と一喝。「2ストライク3ボールからの、一塁走者のスタートの速さ一つ見ても横浜の選手と意識が全然違う」と指摘した。末次監督は「小倉さんのべらんめえ口調に選手がビビっちゃうことがあるけども、50人近くプロ野球選手を育てた小倉さんが技術指導をしてくれるのはありがたい」と感謝している。

すっかり打ち解けた城北と横浜の選手たち。悲願の夏甲子園優勝は、熊本球児の夢でもある
すっかり打ち解けた城北と横浜の選手たち。悲願の夏甲子園優勝は、熊本球児の夢でもある

■「こうやれば、勝ちにつながる野球」


 トレードマークだった太鼓腹が、ジム通いと食事制限で引っ込み「16キロも痩せたんだ」と自慢する小倉さん。「選手に教えたことが、結果になって出た時は何よりもうれしいよね」と目を細める。今も北海道から沖縄まで、指導のオファーが絶えないが、家を空けるのは1カ月のうちの10日間に抑え、家族との時間も大切にしているそうだ。モットーは「正しい、細かい野球を教え、こうやれば勝ちにつながるという野球を伝える」。鍛えて強くしてきた、横浜指導者時代と変わらない。

 試合後、球場の外では選手たちがおなかを空かせた子供が夕食を待つような目をして整列していた。小倉さんのアドバイスを待っているのだ。

「着替えてグラウンド戻っとけ~。帰ったら練習だ~!」

今もなお、心から野球を愛する小倉さんのダミ声が、広く澄んだ熊本の秋空に響きわたった。【樫本ゆき】