女子の高校野球選手はどうしているのだろうと気になっていた。「特別な夏」なのは男子と同じはず。選手の思いに触れたくて、横浜隼人女子野球部にお邪魔した。同校は軟式から硬式に移行して2012年9月に創部。2018年夏に全国準優勝を果たしたチームだ。元プロ野球選手を父に持つ、田村知佳さん(40=元女子日本代表)が監督を務めている。春、夏の全国大会は中止になったが、チームは8月8日開幕の関東大会(KBWF高校女子大会、埼玉加須、参加10校)に向けて練習を行っていた。部員41人。活気ある声がグラウンドに響いた。

「全体練習ができたのが7月中旬。大会開催が決まってから、急ピッチで仕上げました。予選リーグを含めると最低4試合も試合ができるんです。ありがたいですよね」。感染予防に努め制限ある中での練習だが、田村監督は喜びと感謝をかみしめながら話した。

主将の染谷菜摘さん(3年)は「休校中は自分を磨ける時間」と受け止め、弟と公園で素振りや20分走などで体を動かした。仲間とのビデオ通話で寂しい気持ちを埋めていたという。西村真依さん(3年)は在宅ワーク中の父が公園でノックなどを手伝ってくれた。野球の会話が増え、応援されていることを強く感じたそうだ。ピッチャーの川本千絵さん(3年)は公園でスパイクを履いての投球練習を続けた。球を受けてくれたのは兄。小2から始めた野球が好きでたまらない。3人とも野球経験ある家族のサポートで自主練習が続けられた。大会は2、3年保護者の観戦が許されている。「恩返しがしたい」と口をそろえる。

■勉強が優先。「野球で志望校に入れるわけではない」

田村監督が選手たちを見ながら「女子のほうが現実的で、切り替えが早いのかもしれませんね」とつぶやいた。どういうことかと聞くと、全国大会中止が決まったあとの行動にそれを感じたという。

「進路の心配が先にありました。全国の代替大会が秋になると推薦入試と重なり、全員参加が難しい。野球で志望校に入れるわけではないので、勉強に切り替えたいと話す選手が多くいました」。全国大会で好成績を残すようになった横浜隼人だが「野球は高校まで」と言う選手が多い。過去の選手たちも看護師、薬剤師、管理栄養士、パイロット…と夢はさまざま。現チーム3年生11人も、野球を続けるかどうか悩み中だ。「だからこそ、野球を通じた人間教育を高校生の間にしっかり身につけさせたいんです」と力説した。

選手たちの「最後の大会」にかける思いは強い。

染谷さんは「仲間とやり切りたい。チームプレーの達成感が、野球にはある」。西村さんは「どんな結果になっても、集大成の結果を自分自身が確かめたい」。川本さんは「陸上部の友達が大会中止に落ち込んでいて、心が痛んだ。チーム優勝に貢献できるピッチングをしたい」。やるからには、もちろん関東優勝を目指す。明るさと元気と笑顔を失わず目標に向かう高校生の姿に、学ぶものが多いと感じた。

【樫本ゆき】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「いま、会いにゆきます」)

3カ月の休部を経験し、選手たちは明るい笑顔で最後の高校野球を楽しんでいる
3カ月の休部を経験し、選手たちは明るい笑顔で最後の高校野球を楽しんでいる