いま大学準硬式野球の魅力をまとめる冊子を作っている。準硬式は約1万人の競技人口がいるが、まだまだ知名度は低い。「高校生に向けて『こんな野球があるよ』というのを広く知ってもらえる内容にして欲しい」。OB、関係者からそんな要望を受けている。「準硬式は学生が自分たちで考え、学生主導で運営を行っています。その点を見てもらいたい」とも言っていた。<学生主導って言っても偉い役員みたいな大人のひと(悪く言えば何もしないオジサマたち>が大勢いるような現場なのだろうな>…と心のどこかで思っていたが、本部席には本当に学生しかいなかった。「審判も学生なんです」。東都リーグ学生委員の山田力也さん(青山学院大学・2年)が教えてくれた。ここは6部まであるリーグ戦。1部以下は運営費の問題で審判料が払えない。「でも自分たちで審判をやってみたら大変さがわかりました。ドッと疲れます…」。審判がいることのありがたみ。山田さんは笑顔で話してくれた。

■元ハンド部、“プロ”打ち2安打…選手は多種多様

 準硬式の学生たちを見ていくといろいろな「面白み」に遭遇する。それまで自分の中にあった「大学野球の常識」に、新鮮なエキスが注入されていくのだ。

高校時代ハンドボール部だった選手がいた。高校で野球部に入ったが途中で断念。いろいろあったみたいだが、野球は嫌いにならなかった。だからまた野球をやろうと思い、準硬式を選んだ。「野球を嫌いにならなくてありがとう」。自然と彼にそんな言葉をかけてしまった。ブランクのある彼にとって、硬式は少し敷居が高かったらしい。

高校時代、阪神及川雅貴投手(横浜高)から2安打を打った選手がいた。最後の夏は神奈川大会でベスト4。「横高を倒したけど、東海大相模に負けてしまった。公立はあそこが限界ですね」。カラッとした表情で笑った。大学では「新歓」にひかれラクロス部に入部。でも3カ月で辞めた。「やっぱ野球がやりたくなったんですかね」。いま金属バットで打球を飛ばしている。「ただただ楽しい」。及川から2安打打った話は自分からはしない。いい指導者、仲間と真剣に打ち込んだ高校野球は、自分の中に秘めた誇りだ。

「準硬式をやってイップスが治ったんです!」とアピールしてきた選手もいた。高校時代、どれほど追い込まれて野球に打ち込んできたか想像できる。そんな高校野球を経ているから、今が充実している。「同じ6大学野球でも硬式に比べ見に来る人は少ない。だからこそ『自分は本当に野球が好きなんだな』と実感します」。

準硬式は男女問わず「野球初心者」も歓迎だ。「下手ならみんなで教えてあげます」と学生委員の山田さん。なんだかとても優しさにあふれているなぁと思った。気持ちが洗われる取材となった。

5日から関東枠5をかけた「文部科学大臣杯 第73回全日本大学準硬式野球選手権大会」(8月・岡山)の予選会が始まった。出場を決めた法政大・堀江悠介主将(健大高崎・4年)は「高校で磨いてきた走塁が試合で生かされると嬉しい」と話し、神奈川大・宮崎泰地主将(常葉菊川・3年)は「『楽しく』が『だらける』にならないよう、嫌われてもいいと思って言葉で伝えている。結果を出すための自主性、主体性は高校時代に教えていただいた」と胸を張る。大学野球には硬式、軟式、そして準硬式というカテゴリーがある。高校野球を頑張った人ほど、大学でも野球を続けて欲しい。進路を考える高校生が、この「面白みのある」準硬式を選択肢の一つに加えて欲しいと、少し思った。【樫本ゆき】