横浜(神奈川)渡辺元智監督(70)が取材中、何度か口にした言葉がある。

 「横浜高校野球部の今があるのは、女房の努力も大きいよ」

 就任した当初、自宅に選手を住まわせていた。6畳一間に監督夫妻と生徒3人で寝食を共にしていたこともあったという。その後、80年代に入って合宿所ができてからも地方から来た子や、手元に置いておいた方がいいと判断した生徒を自宅に呼び寄せていた。「ほんとに、何十回も引っ越したよ」と渡辺監督は懐かしそうに振り返ったが、苦労は計り知れない。当時、食事の支度は紀子さんの役目だった。合宿所で30人分作った後、自宅に戻ってまた10人分作ることもざらだった。「小さい娘も2人いたし、大変だったと思う。でも、このことは記事にあまり書かなくていいからね」。少し照れながら話す渡辺監督の表情が思い出される。横浜高校野球部の歴史には、名将に寄り添う紀子夫人がいた。【和田美保】