真夏の甲子園が、「ザ・キャッチ」に沸いた。走攻守3拍子そろう関東第一(東東京)のドラフト候補、ナイジェリア人の父を持つオコエ瑠偉外野手(3年)が、1回2死満塁から左中間への大飛球を背走してスーパーキャッチ。抜ければ3失点確実のピンチを救い、サヨナラで中京大中京(愛知)を破る立役者になった。初戦は3安打4打点と、「走」と「攻」で沸かせた男が、守備で大観衆を魅了した。

 左中間フェンスに向かって一直線に伸びる打球を追って、最短距離で加速した。1回2死満塁のピンチ。中堅手オコエは、「セカンドランナーを刺すイメージだった」と定位置より約5メートル手前、右中間寄りに守備位置をとっていた。

 中京大中京の6番佐藤の打球に対して、50メートル5秒96の俊足を飛ばす。グングン伸びるボールを、最後は左手のグラブを目いっぱい伸ばして、飛び付くように捕球。「最初はフライかなと思ったら結構伸びてきて、届くかどうかと思いました。ギリギリまで手を伸ばして、ギリギリのタイミングで捕れた」と興奮した。

 抜けていれば3失点は確実の場面で飛び出した「ザ・キャッチ」。捕球直後には、反射的に落ちた帽子も取ろうと右手が反応した。獲物は逃さないとばかりの野性味あふれる動き。4万7000人の大観衆が、ビッグプレーに沸き上がった。「気持ち良かった。甲子園が沸いてくれるのはやっぱり気持ちいい」と笑った。特大本塁打で聖地を魅了したスターは数多くいたが、守備でこれほど大歓声を受ける選手は珍しい。

 これこそがオコエが求めたスタイルだ。東東京大会決勝直後。甲子園で一番見せたいプレーは「守備です」と即答。試合中は、投球ごとに守備位置を右へ、左へ移動する。「ピッチャーが投げる球で、どのへんに飛んでくるか大体分かる」と言った。測定不能の視力2・0以上の目で状況判断。「相手を錯覚させる部分もある」と、あえて投手の攻めと逆方向に動き、打者を混乱させる狙いもある。

 遠投120メートルの強肩と俊足を誇る守備力は、各球団から1軍レベルと評価される。欠かせない相棒の黒いグラブは特注品。左手の小指と薬指を同じ穴に入れて、バランスを取る。硬式球より大きいソフトボールを3日間挟んで通常より大きいポケットをつくり、ギリギリの捕球につなげた。

 サヨナラで5年ぶりの8強進出を決め「守備で貢献できて良かった」と言った。ボールが飛んでから捕球まで、4秒34。一瞬の時に、ファンが仲間が、みんなが夢を見た。【前田祐輔】

<プロTHEキャッチ>

 ◆ウィリー・メイズ(ジャイアンツ) 54年、インディアンスとのワールドシリーズ第1戦。2-2で迎えた8回無死一、二塁で中堅後方への大飛球を背走し、フェンス際で後ろ向きのまま捕球した。流れをつかんだジ軍は4連勝でシリーズ制覇。「ザ・キャッチ」と呼ばれ、語り継がれている。

 ◆イチロー(マリナーズ) 05年5月2日のエンゼルス戦。7回に本塁打性の打球を、フェンスに足をかけスタンド入り直前で捕球。08年5月26日のレッドソックス戦ではバリテックのセンター後方への飛球を、フェンスに激突しながらも背面ジャンプでキャッチ。

 ◆山森雅文(阪急) 81年9月16日の西宮球場のロッテ戦。弘田の左翼の大飛球をフェンスによじ登りキャッチ。米国野球殿堂に写真が飾られた。

 ◆新庄剛志(メッツ) 01年7月22日のフィリーズ戦。6回1死一塁でリーの中堅後ろへの打球をフェンス手前で捕球。地元紙はメイズになぞらえて伝えた。