最後の最後に笑った。ナイジェリア人の父を持つアドゥワ誠投手(3年)が、松山聖陵を春夏通じて初の甲子園へ導いた。196センチの長身から投げ下ろし、ポーカーフェースを崩さずに117球の力投。創部47年目での悲願に「みんなの気持ちが入っていた。気持ちで投げました」と青空に向かって指を突き上げた。

 気力だけだった。1回1死一塁で、打球が右肩を直撃した。飲み薬も効かず、ベンチでは氷で冷やし続けた。試合後も「肩が上がりにくいです」と明かす状態で、最速145キロの直球は138キロ止まり。11球目のアクシデントから先制を許し、10安打を浴びたが、自身の素早いフィールディングなどでピンチを脱した。

 186センチの父アントニーさんに、バレーボールの実業団ダイエーで活躍した母純子さんも180センチある。高校入学時に既に191センチあったが体重は61キロで、99年センバツに沖縄尚学で全国制覇した荷川取(にかどり)秀明監督は「ヒョロヒョロだった」。昨冬からはアドゥワが「吐くまで白米」と苦笑するほどの肉体強化に努めて体重は10キロ増、球速と力強さも備わった。

 震災に苦しむ故郷熊本からは片道6時間かけて両親が駆け付けた。ちょっぴりシャイな次男は「ちょっとは親孝行できたかな」と照れ笑いした。幸い右肩は軽症のもようで「熊本の人も見てくれるだろうし、今までお世話になった人のためにも」。ノーシードからつかんだ栄冠とともに、憧れの聖地へ力を込めた。【近間康隆】

 ◆アドゥワ誠(まこと) 1998年(平10)10月2日、熊本市生まれ。出水南小1年の時に熊本中央リトルで野球を始め、出水中では熊本中央シニアでプレー。松山聖陵で1年秋から登板。家族は父アントニーさん(48)と母純子さん(47)兄大(まさる)さん(20=東農大オホーツク北海道)は九州国際大付(福岡)で甲子園出場。196センチ、86キロ。右投げ右打ち。

 ◆松山聖陵 1961年(昭36)に男子校として創立した私立校。08年から共学。生徒数は1045人(女子165人)。野球部は70年創部、部員75人。主なOBに俳優藤岡弘、お笑いコンビのデンジャラスのノッチら。松山市久万ノ台1112。渡部正治校長。

◆Vへの足跡◆

1回戦18-0三間

2回戦5-1川之江

3回戦5-4西条

準々決勝7-3今治東中教校

準決勝7-1今治北

決勝3-2新田