酒田南が試合前のアクシデントを乗り越えて山形商を9-2の7回コールドで下した。試合開始直前、ベンチ前で素振りしていた選手のバットが先発予定だった中西啓太郎投手(3年)の右耳を直撃。中西は流血し、救急車で運ばれた。代わって緊急先発したエース左腕阿部雄大(2年)が、7回3安打2失点7奪三振と粘り、チームを2年連続の準決勝進出に導いた。

 まさに試合が始まろうとしていた時、阿部は信じられない光景を目にした。ベンチ前の芝で、先発予定の中西が右耳から血を流して倒れている。慌ててブルペンに向かう阿部。10球ほどしか投げられなかったが、頭と心は冷静だった。

 「野手が少し動揺していたのが分かった。自分に緊張はなかった。マウンドではテンションが上がっていたので、焦らず淡々と投げられた」。1回表を3者凡退で切り抜けて、チームを落ち着かせた。2回に先制点を許すも、この日最速134キロの直球でコースを丁寧に突いて7回2失点と粘った。

 燃える理由があった。昨秋から任されている背番号1は、昨夏まで中西が背負っていたものだった。阿部の登板時には遊撃を守る先輩から「落ち着いて投げろ」などと声をかけられ、この日カウント球に使ったスライダーも中西から握りを伝授されていた。「曲がりもキレもよくなった。先輩にお世話になっていたので」と必死に腕を振ってアクシデントを乗り越えた。

 2年生エースの強心臓ぶりに、鈴木剛監督(36)は目を細めた。「阿部がよく投げた。初回を3人で抑えたのはさすが。5回ぐらいまでは点の取り合いを予想していた」と話すと、足早に病院へ向かった。主将の豊川健太内野手(3年)も「センバツがかかった昨秋の東北大会準決勝(盛岡大付)の先発を経験している。大舞台に強いのは分かっていた」と証言した。

 明日22日の準決勝は秋春優勝の第1シード日大山形と激突する。夏は6年連続の対戦となり、目下3連勝中だ。負傷状況によって、中西は欠場の可能性もある。阿部は闘志を燃やした。「先輩を絶対に甲子園につれていきたい」。5年ぶりの聖地は「鉄のハート」を持つ2年生エースの左腕にかかっている。【高橋洋平】

 ◆阿部雄大(あべ・ゆうだい)2000年(平12)7月28日、山形・鶴岡市生まれ。朝暘一小4年から野球を始め、鶴岡三中では軟式野球部。酒田南では1年夏からベンチ入りし、同秋から背番号1。181センチ、76キロ。左投げ左打ち。