日本文理(新潟)は併殺崩れの間に許した1点に泣き、0-1で涙をのんだ。エース稲垣は6安打1失点で自身公式戦初完投。ただ、打線は仙台育英(宮城)を上回る7安打も拙攻が響き、相手守備の美技にも阻まれて、適時打が生まれなかった。強敵と接戦を演じた手ごたえと同時に、チャンスで1本を打てなかった悔しさ。何より、大井道夫監督(75)との最後の夏、本気で目指した全国制覇に届かなかった無念さを残し、日本文理の夏は終わった。

 稲垣の目に涙はなかった。ただ、言葉には悔しさがにじんだ。「1点取られたことに悔いが残る」。2回裏1死一、三塁、堀内真森三塁手(3年)がゴロを処理して二塁に転送したが併殺にはできず、その間に三塁走者の生還を許した。結果的に、この1点が響いた。稲垣は「三振を取っていれば失点しなかった場面。絶対的なエースではなかった」と自分を責めた。

 もちろん、チームメートの見方は違う。牧田龍之介捕手(3年)は言う。「稲垣は本当によく投げていた」。127球の熱投。6回から8回まで先頭を安打で出し、得点圏に走者を背負った。追加点を許せば試合が決まる流れの中、スライダー、スプリット、チェンジアップでかわした。この日の最速は141キロ。自己最速にあと1キロと迫り、大井監督も「最高のピッチング」とたたえた。

 指揮官から「お前に任せた」と託された。新谷晴(はると)と鈴木裕太(ともに2年)の後輩投手陣も準備していたが、この言葉に奮い立った。「打てるものなら打ってみろ、という気持ちで投げた」。気迫は大舞台で初完投につながった。

 ただ、打線はエースを援護できなかった。4番松木一真左翼手(3年)は「チャンスで打てなかった」。5番永田翔也一塁手は(3年)は2回無死一塁で三遊間の安打性の打球を好捕されて併殺打に倒れた。「あの打球を捕られるなんて…」。大井監督も「仙台育英さんの守備に4本くらい安打を捕られた」。互角の展開ながら、勝敗を分けた差を見せつけられた。

 川村は言う。「勝てた試合だった」。全国制覇を掲げて戦う中で得た実感だ。それを結果につなげることが、今後の日本文理のテーマになる。【斎藤慎一郎】