彦根東(滋賀)のエース増居翔太投手(3年)が悲運に泣いた。10回裏、打者31人目。4番紺野に投じた133球目、内角への直球が、外野の芝生に無情にも落ちた。花巻東にHの赤ランプが初めてともった。「一番悔やまれる。その1球がすべて。勝負あったかなと」。京大工学部を狙う頭脳派左腕は、淡々と初被安打を振り返った。その後、四球と安打で無死満塁。途中出場の藤森に中犠飛を許してサヨナラ負けした。9回まで無安打無得点の好投も、歴史的記録とともに、白星すらその手からこぼれ落ちた。

 「全然打たれる気がしなかった」と女房役の高内が話すように、ほぼ完璧な投球だった。最速140キロの直球と100キロに満たないカーブ、キレのあるスライダーが見事に決まる。9回まで見逃し7つを含む14奪三振。自身も「出来過ぎ」と9回までの投球を語った。しかし、打線が最後まで無得点。最後は花巻東の粘りに力尽きた。

 普段は欅坂46の渡辺理佐(19)が推しメンの普通の高校生。勝手に部室にポスターを貼ることも。しかし、グラウンドでは負けん気が強くて、大舞台では冷静だ。「人と違う感性を持っていて、言動が自分たちの上をいっている」と高内は話す。ノーヒッターと8強進出は逃したが、琵琶湖のように深く、大きな衝撃を残した。【奥田隼人】