「天国の母に届け」と内角の直球をくるりと引っ張った。拳1つ分短く持ったバットから放たれた打球は、左翼手の頭上を越えレフトスタンドに吸い込まれた。0-0で迎えた3回裏無死一、二塁、関東学園大付・岡本京志郎外野手(3年)が先制の3点本塁打を放った。「打った瞬間いったと思った。ランナーを返そうとコンパクトに振った結果です」と通算8本目の本塁打を振り返った。

 中学3年生の2月12日、最愛の母弘美さんを膵臓(すいぞう)がんで亡くした。「明るく誰とでも仲良くなれる人だった」と岡本。小学4年で野球を始めたきっかけも弘美さんのすすめだった。「今日のホームランボールは帰って仏壇の母に見せます。ここまで野球をやってこられた。感謝を伝えたい」と語った。

 母が亡くなった後、父敬司さんとの二人三脚の生活が始まった。自宅のある栃木県足利市から電車で約1時間かけて学校に通い、授業前にも自主練習。父も同じ時間に起き、弁当も作ってくれた。「自分が悩んだ時に優しい言葉をかけてくれた」と精神的にも支えられた。

 そんな岡本は2年時に1度野球をあきらめかけた。「冬に毎日最低でも200本バットを振った。それなのに結果が出ず、野球が怖くなった。練習するのをやめて、ライン引きやグランド整備などをした」と裏方に徹した。しかし昨年の3年生の最後の姿に心を打たれ選手復帰を決意。毎日欠かさずに自主練習を行い、実績を積んだ。その結果1番中堅の座を獲得した。「あきらめずに続ければ、結果はついてくる。“打倒健大高崎”を目標にやってきた。健大高崎を倒さなければ甲子園には行けない」と昨秋、今春県覇者打倒を掲げた。同校初の甲子園まであと2勝。聖地で活躍する姿を母に見せる。