近江ブルー一色に染まるアルプス席の大歓声に、近江(滋賀)・有馬は右手を突き上げながら応え、ゆっくりと一塁を駆け抜けた。9打席目にしてようやく出た甲子園初ヒットが、16強を決める劇的なサヨナラ打となった。

 「最高の気分でした。打った瞬間にアルプスを見たらみんなが喜んでくれていたので、打ててよかったです」

 捕手目線の考えが的中した。同点の9回、無死満塁で相手投手の恩田が足をつり、治療の間に冷静になった。「あそこはどうしてもストライクを欲しくなるところ。一番取りやすいのが真っすぐだと思い、張っていました」。読み通り、外角直球をねらい打ち。打球はゴロで、前進守備だった二遊間を抜けた。

 劇的勝利の流れを呼び込んだのは、有馬と同じ2年の林の快投だった。4回から2番手で登板。林はベンチに戻るたび、有馬の「お前が辛抱したら俺が絶対に打ったる」という言葉に背中を押された。9回2死からのピンチでもマウンドに駆け寄り、言った。「お前は新チームになったらエースにならなあかん。ここで抑えて人間的に成長しろ!」。林は丸山を一ゴロに仕留めた。最終回まで投げ、6回を2安打に抑えた。

 多賀章仁監督(58)は有馬について「考えていることは、私と同じというか、私以上のこともある」と明かした。高校入学直後、能力の高さを買われ、試合に出場。まだユニホームが届かず、監督のユニホームを借りて出場したこともある。「投手の良さを引き出す。林は持ち球が多くて、コントロールがいいので、有馬の配球が決まれば、まず打たれない」。2年生バッテリーへの信頼は絶大だ。

 初戦では97、00年夏の覇者で、今春センバツ準優勝の智弁和歌山を撃破。この日は13年夏を制した前橋育英までも沈めた。近江旋風が止まらない。【古財稜明】