2年ぶり6度目出場の常葉大菊川(静岡)が、近江(滋賀)に4-9で敗れた。10年ぶりの8強進出は逃したが、9回に反撃。奈良間大己主将(3年)の三塁打を皮切りに、伊藤勝仁外野手(2年)が2ランを放つなど、伝統の「フルスイング」で笑顔の花を咲かせた。高橋利和監督(32)の掲げる「ノーサイン野球」も貫き、甲子園にインパクトを残した。

 榛村大吾(3年)が二ゴロに倒れ、常葉大菊川の夏が終わった。スコアでは4-9の完敗。だが、選手たちの目に涙はなく、奈良間は晴れやかな表情で言った。「やりきったので、悔いはないです。今までやってきたことが全部、9回の粘りにつながりました」。

 9回表。奈良間は先頭で、左翼フェンス直撃の三塁打を放った。塁上でガッツポーズ。3番鈴木琳央内野手(3年)の犠飛で生還すると、ベンチは大いに盛り上がった。4番根来龍真捕手(3年)も三塁打で続き、5番伊藤が、公式戦1号の2ランを左翼席に放り込んだ。3人そろって「フルスイング」で、観衆約2万9000人を沸かせた。

 「ノーサイン野球」も、話題になった。高橋監督自身は、小学生の頃から徹底したサイン野球でプレーし、「失敗するたびに、下を向いていました」と振り返る。苦い経験から、2016年夏後の監督就任後、選手の自主性を重んじた。「自分で判断して、挑戦しての失敗やミスなら次につながりますから」。当初は、選手と互いに戸惑うことがあったが、形となった今夏からは楽しさが増したという。「いろいろなプレーが出てきて、こっちも勉強になります」。この日も盗塁失敗や守備の細かなミスはあったが、奈良間は「攻めのミス。自分たちの野球はできました」と胸を張った。

 森下知幸前監督(57=現御殿場西監督)の築いた「フルスイング」「守備走塁重視」を踏襲し、新スタイルを加えた高橋監督が誇らしげな表情で言った。「河原で子どもたちがやるような野球ができました。ノーサインで『遠くに飛ばしたい』とか、それが原点。いいチームになったなと。すごい楽しかった。純粋に思い切りやる。それが菊川の野球です」。

 選手たちは、劣勢でも笑顔を通した。「野球は楽しい」。プレーと態度でこれを示し、堂々と甲子園を後にした。【鈴木正章】