東邦(愛知)の吉納翼外野手(2年)は、強い思いを胸に打席に入っていた。2-0とリードしてなおも迎えた1回2死一塁。一塁コーチャーに視線を送ると、その思いをさらに強くした。「変化球に泳がされましたが、うまく打てた。先輩と一緒に戦っているつもりだった」。打球は右翼線を破った。一塁コーチャーが「動かせない」右手とは逆の左手をぐるぐる回した。必死に走った。3点目をたたき出すタイムリー三塁打に「打ったのは自分ですが、先輩の気持ちを含めてチーム全員で打たせてもらいました」と胸を張った。

前日(2日)の準決勝、明石商(兵庫)の7回に、河合佑真外野手(3年)が右手に死球を受けて途中退場。病院で診断を受けた結果、右手親指の骨折と判明した。河合は自分が決勝に出られないという現実に落ち込みながら「自分ができることをやろうと思った」と決勝の日の朝、一塁コーチャーを直訴。そして、この日の朝、宿舎で自分の打撃用手袋とヒジ当て、すね当ての3点を吉納に使ってくれと頼んだ。託された吉納は「記念になるから」とその3点セットと自分の顔を入れて自撮りするほどで、そのうれしい思いを第1打席にぶつけた。「吉納が打ったときは、自分が打ったみたいな気持ちでうれしかった」。河合は自分の「分身」を身につけて打って、走った後輩に目を細めた。

吉納 河合さんは自分が入学して最初のころ、守備が下手でいろいろと教えてくれた人。野球だけでなく、生活面でも教えてくれる人です。

河合 かわいい後輩。準決勝も自分が退いた後に3ランを打ってくれた。頼もしいです。

河合は中学3年のとき、ホームにヘッドスライディングした際に左手の親指を骨折したことがある。今度は右手親指骨折。ツキがないようだが、全国Vという「勲章」は手にした。「地元に帰ったら手術です。全治3カ月と言われ、夏はギリギリですが、人より倍努力してまたここで活躍したい」。ちょっぴり「不完全燃焼」の河合が、吉納とともに戦う夏を楽しみにしていた。【浦田由紀夫】