岩手大会が開幕し、大槌が9-3で盛岡農に逆転勝ちした。部員9人にバスケットボール部からの助っ人1人を加えて出場。「4番一塁」の古川真愛(まなと)内野手(2年)が3安打6打点の大活躍で、4年ぶりの夏1勝を導いた。

5回表に同点に追いつくと、2死満塁から走者一掃の左中間二塁打で勝ち越し。7、8回にも長打で加点し、突き放した。11年3月11日の東日本大震災で母、弟、妹を津波被害で失った釜石出身の男が、家族の月命日に高校生活初白星を贈った。

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古川が初球からのフルスイングで、みんなを笑顔にした。同点とした5回に、内角直球を逆方向の左中間に運び、3点勝ち越し。7回にも初球を右越え2点二塁打。8回にも右中間に会心の適時二塁打を放ち「震災は自分の人生を変えた。家族を亡くしたことも、考え方や意識にも大きく影響した。父親にも大変な思いもさせてしまった。今日は月命日。母親が見ていてくれたのかなと思う」。5歳だった弟、3歳だった妹を含め、背中を押された殊勲打に感謝した。

悲しさ、悔しさを忘れることはできない。だが、少しだけ和らげてくれたのが震災直後から始めた野球だった。釜石東中1年からはプロを目指して硬式野球を始め、強豪の東北(宮城)に進学したが、環境になじめず体調不良。「そんな時に大槌高校に誘ってくれたのが中学時代の仲間でした。野球や勉強を一緒にしたかった。支えてくれました」。昨年5月に転校し、活力が戻った。

6安打完投したエース右腕・柏崎一馬(2年)ら親友と、1年生7人だけで切磋琢磨(せっさたくま)してきた。今年4月には新入生2人が入部し、1、2年生だけで単独出場。大会直前にはケガや熱中症の非常事態要員として助っ人も1人追加登録した。自身も高野連規定で1年間は出場できなかったため、この日が公式戦初出場。「チャンスを作ってくれた仲間にも感謝。やはり公式戦は気持ちが良かった。みんなのパワーに応えようと思いました」。帰宅後も素振りを続けてきた成果を示し、勝利の喜びを分かちあった。

14日の2回戦では第2シード盛岡四と対戦する。「一戦必勝。目の前の敵を1つ1つ倒したい」。月命日となる8月11日に、甲子園でのプレーは最大目標だ。【鎌田直秀】