智弁和歌山が猛打で明徳義塾(高知)を圧倒した。同点とした7回に、細川凌平外野手(2年)が勝ち越し3ラン。台風の影響で、いつもと逆の右方向に吹いた浜風に乗せ、根来塁外野手(3年)と東妻純平捕手(3年)もアーチで続いた。1イニング3本塁打は08年に同校がマークした大会最多タイで同じ8月13日の縁。勢いに乗って、3回戦は大会NO・1投手、奥川恭伸(3年)擁する星稜(石川)との大一番に臨む。

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振り切った瞬間、細川は「いけ~っ!」と叫んだ。打球を目で追いながら全力疾走。大きく舞い上がった打球は追い風に乗って右翼席に突き刺さった。同点とした直後の7回1死一、二塁。勝ち越し3ランに右手を大きく突き上げた。「球場が味方してくれた。神様が見てくれていた」と会心の笑みを浮かべた。

直前の1死一、三塁。この回から始まった「魔曲」のチャンステーマ「ジョックロック」に乗ってか、主将黒川の当たりが遊撃前で大きくはねた。幸運な同点内野安打。“奇跡”の始まりだった。細川の3ランに続き、5番根来が2ラン。再び右翼へ運んだ。さらに東妻が右中間へソロ。08年の同じ8月13日に同校がマークした大会最多に並ぶ1イニング3本塁打。この回一挙7点で大勢を決めた。

細川は先輩の姿に気持ちを高ぶらせて打席に立った。1死走者なしから、この回最初に出塁したのは投手の池田。全力疾走の二塁打に心打たれた。「シビれた。先輩の姿に魅了された。僕もやらないといけないと思った。(一走)黒川さんを絶対返してやろうと」。

昨秋の近畿大会は同じ2年の明石商の右腕、中森俊介の前に無得点でコールド負け。快速球に思い切り詰まらされた。ボーイズ日本代表で世界一を経験し、1年夏から甲子園を経験したエリートがプライドを捨てた。一流にも力負けしないスイングを身につけると決意。その姿を見守ってきた黒川は「練習で苦しんだからこそ、結果に結びついた」と後輩をたたえた。

19年ぶり日本一へ、文字通りの追い風だった。甲子園名物の浜風は通常、右翼から左翼方向に吹き、左打者には不利。しかし、この日は台風接近の影響か、正反対。右翼方向に強く吹いていた。3本塁打はいずれも中堅から右方向だったが、中谷仁監督(40)は「ほとんどが風の影響だと思いますが、気持ちが運んでくれたと思います。池田が打って、池田の何百倍も打撃練習している野手たちが意地を見せた」とたたえた。

明徳義塾に甲子園3度目の対戦で初勝利。次戦は大会NO・1投手の奥川擁する星稜とぶつかる。細川は「これからが勝負。12人の3年生との夏は一番長い夏にしたい。日本一しかない」と誓った。目指す王者へ奥川を打つ。【南谷竜則】

▽智弁和歌山・根来(右翼に2ラン)「ちょっと上がりすぎたかと思ったけど、風が(普段と)逆に吹いていた。右肩をうまく残して打てました」

▽智弁和歌山・東妻(7回、右中間最深部にソロ本塁打)「風で入ってくれた。打ったのはまっすぐ。次の星稜戦は、楽しみにしています」