シーズンオフ企画「高校野球NOW」の第2回は日本高野連が若手指導者育成を目的に08年から開催されている「甲子園塾」にスポットを当てます。2泊3日で塾長の星稜・山下智茂名誉監督(74)、今夏日本一の履正社・岡田龍生監督(58)ら名将が指導法を惜しげもなく伝授。参加者には元朝日放送アナウンサーの西宮今津・清水次郎部長(48)の姿もありました。【取材・構成=石橋隆雄】

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甲子園塾2日目、山下塾長はモデル校となった尼崎工ナインを相手にノックを打ち、自ら手本を見せた。「言葉にはウソはあるが、ノックにはウソはない。1センチ、1ミリにこだわってノックする」。74歳になった今も生きた打球を打つためにジムに通って鍛え続けている。「グラブ外して素手で捕れ」と大声で指示。今のご時世、素手に強い打球は打てないが、緩いゴロを素手で捕球させ1球の大事さをたたき込んだ。

尼崎工の近藤主将に対しては伝説のマシンガンノック。現役時代、松井秀喜らに1000本浴びせてきたどんどん距離を詰めながら左右に飛び込ませるノック。今回は50本だったが、残りが少なくなるにつれ、見守る尼崎工ナインの声も大きくなった。ヘトヘトでクリアした近藤主将をナイン全員で胴上げする。毎回この時、選手たちの気持ちがひとつになるという。

受講者の指導者たちは、驚きながらスマートフォンなどで動画を撮影していた。その中に、今回の受講生27人のうちただ1人の40代、最年長48歳の清水部長は黙々と紙にペンでメモをしていた。「年齢ですかね。動画をもう1度言葉に起こすよりも、その場でメモを取った方がいい」。朝日放送で22年アナウンサーをやってきた。高校野球の実況でもエース格だった。高校教師になりたいと転職して3年。この秋に顧問から部長になり、甲子園塾参加資格ができると喜んで手を挙げ、選ばれた。

全国から54人が選ばれ、その半分が今回参加。部員数が1桁の学校から来ている指導者も3人いた。それでも一流の考え、技術を少しでも持ち帰ろうと誰もがわれ先に質問していた。清水部長は「アナウンサー時代に好き勝手(放送で)言っていたが、あんな大きな舞台で力を発揮できるチーム、選手はすごい」。ただ聞くだけではなく、体罰についてグループ討論するなど、若い指導者たちが意見を言える場面もあった。

「目からウロコの話もたくさんあったし、今のままでいいんだと自信になることもあった。とにかく今後も勉強しなさいと教わりました」。取材や放送席での解説では聞けない技術論、指導法などメモを取りまくった。2泊3日を共にした全国の指導者との横のつながりができるのも、この甲子園塾の目的の1つだ。清水部長は受講者みんなの前で「この中で、私が一番先に甲子園に出ます」と高らかに宣言した。激戦の兵庫を勝ち抜くことは難しいが、チームが強くなるヒントを学んだ証しでもあった。

アナ時代「あなたにとって甲子園とは」と聞いてきた清水部長に「甲子園塾とは」と聞くと、「それって難しい質問だと、よく聞きました。『夢の中』ですかね。現実を離れた3日間だけの別世界」と答えた。3日間を終え山下塾長は「高校野球の指導は情熱と愛。生徒の心に火をつけてやることが大事。『花よりも花を咲かせる土になれ』」と言葉を贈った。受講者は各都道府県に持ち帰り、還元する。名将たちの教えが全国に伝わり、若い指導者の台頭へとつながっている。

▽永田裕治前報徳学園監督(甲子園塾は3年連続4度参加)「とてもいい活動。受講した若い指導者たちが、引き出しをたくさんつくって生かしてくれれば。僕らも勉強になる。指導方法などいろいろ確認できます」

◆甲子園塾 日本高野連が若手指導者育成のために08年11月から始めた。初代塾長は11年3月に死去した箕島(和歌山)の尾藤公元監督(享年68)。受講者は原則、指導歴10年未満の教員。各都道府県から1人(北海道、神奈川など7地区は2人)の54人を選び、2回に分けて2泊3日の日程で座学、実技などを行う。作新学院(栃木)の小針崇宏監督(36)は09年の第2回受講者で16年夏に塾生初の全国制覇をしている。

◆清水次郎(しみず・じろう)1971年(昭46)10月12日、東京都出身。早実では野球部に所属し二塁手。早大卒。94年に朝日放送入社。95年に夏の高校野球で実況デビュー。夏の決勝戦はテレビで7度、ラジオで4度実況している。在籍中の11年から教員免許取得のため通信教育で学ぶ。16年に退社。17年4月から西宮今津(兵庫)で社会科、世界史を教えている。

<甲子園塾スケジュール>

【1日目(11月22日)】

大阪市内・中沢佐伯記念野球会館スタート

午後1時   開講式

午後1時30分 座学1「都道府県連盟の役割」

午後2時40分 座学2「指導者に求められる法的知識」

午後3時20分 座学3「指導者としての基本的な考え方」(履正社・岡田監督、元関大北陽監督・新納氏)

午後5時5分 座学4「部員とのコミュニケーションのはかり方」

午後6時 食事

午後7時 班別討議<1>新入部員の指導について

午後8時 各班の報告、全体討議

午後8時20分 座学5「日本の球史」

【2日目(11月23日)】

午前6時30分 起床

午前7時 食事

午前8時 座学6「部活動の役割と課題」

午前8時50分 移動(尼崎工へ)

午前9時30分 実技<1>「キャッチボール、トスバッティング、バント練習」

午前11時30分 食事

午後12字15分 実技<2>「内野ノック、外野ノック、内外連携」

午後2時15分 実技<3>(元関大北陽・新納氏)

午後3時15分 実技<4>(履正社・岡田監督)

午後4時15分 移動(中沢佐伯記念野球会館へ)

午後5時10分 座学7「不祥事事件の取り扱いと防止」

午後6時10分 班別討議<2>体罰についてどう考えるか

午後7時 各班からの報告、全体討議

午後7時45分 食事

【3日目(11月24日)】

午前6時30分 起床

午前7時 食事

午前8時 移動(尼崎工へ)

午前9時 座学8「チーム、個人用具の管理」

午前9時30分 実技<5>「走塁の基本」

午前10時40分 実技<6>「前日のノックの実践練習」

午後12時15分 食事

午後1時 閉講式