高校野球のホットな話題を取り上げる「高校野球NOW」の最終第8回は、令和初の「福男」が率いる藤井寺工科(大阪)です。黒木(くろぎ)悠輔部長(33)は今月10日の兵庫・西宮神社の本殿参拝一番乗りを競う「開門神事福男選び」で「一番福」を勝ち取りました。部員わずか10人で公式戦は10連敗中。部の存続をかけて奮闘する福男部長にスポットを当て、野球人口減少に直面する府立高校野球部の挑戦に迫ります。

「甲子園に出るか福男になるか」。藤井寺工科の黒木部長は野球部存続の危機に際し、新入生部員の勧誘には強烈なインパクトが必要と考えていた。甲子園は夢のまた夢…。だが13度目の挑戦でついに、西宮神社の「一番福」をゲットした。「挑戦しないと何も始まらない」。1月10日、トップで参道を駆け抜けた姿が、テレビで大写しになり、「藤井寺工科」の学校名が何度も全国に放送された。

昨夏主力だった3年生が抜け、現在の部員はわずか10人。16年4月に黒木部長が着任した時に30人以上いた部員は減る一方だ。新チームが始まる際には、ナインと「10人そろわないと練習しない」と約束。誰ひとりサボることなく、いつも10人で練習を続けてきた。

昨秋も初戦敗退で公式戦は16年秋から10連敗中。だが、新チームは22試合で14勝8敗と、勝負にならないわけではない。10人全員が中学時代に野球経験があり、投手も3人いる。中学時代は控えだったが、主将でエースの岡林皇(あつき)投手(2年)、主軸の中川敬太外野手(2年)は硬式チームでプレーしていた。

定時制もあるため平日は練習は2時間。休日も他の部活との兼ね合いで4時間が最大。毎週火曜は休みだが、自主的に河川敷に集まって練習することもある。黒木部長は「この子たちは本当に野球が好き。10人でやれる練習方法を教えている。自分たちで考えてやらせている。指示待ちではダメ」と説明。高卒で就職する生徒も多く、社会へ出た時に役立つ創意工夫や自主性を重視している。

キャッチボールとノックで鍛え、黒木部長は「半年でびっくりするくらい上手になった」と初勝利への手応えをつかんでいる。だが、1年生は10人中3人。このままでは秋の大阪大会は単独での出場が厳しい。大阪地区の少子化は深刻で、普通科高校への進学も増え、同校も近年受験者の定員割れが続く。「藤井寺工」時代は70年、74年と夏の大阪大会で4強入りした実績もあるが、このままでは統廃合の対象にもなる。

そんな中、黒木部長が「一番福」をつかんだ話題はナインを勇気づけた。岡林主将は「チームに福は来ます。全力で新入部員を集めたい」と力強い。福男率いる藤井寺工科の挑戦に注目だ。【石橋隆雄】

◆黒木悠輔(くろぎ・ゆうすけ)1986年(昭61)7月1日、大阪・枚方市生まれ。小学時代は軟式、中学時代は準硬式でプレー。東海大仰星(現東海大大阪仰星)では3年夏に控えの遊撃手兼一塁コーチでベンチ入り。三重大では準硬式。野球は大学で引退し、大阪教育大大学院へ進学した。支援学校に5年勤務し、16年春から保健体育教師として藤井寺工科に赴任。173センチ、68キロ。右投げ左打ちだがノックは右打ち。

◆藤井寺工科 1963年(昭38)に河南工として開校した府立高校。67年から校名を藤井寺工に変更。05年から現校名。メカトロニクス系、機械系、電気系の3つの専門分野に分かれる。生徒数は668人(女子14人)。野球部は64年創部。70年、74年夏は大阪大会4強。定時制もある。所在地は大阪府藤井寺市御舟町10の1。木下隆校長。

◆西宮神社「開門神事福男選び」 商売繁盛の神様「えべっさん」の総本社、西宮神社で十日えびす大祭が終了し、参拝者の本殿一番乗りを競う。江戸時代ごろから、独特の伝統行事として続けられている。1着から3着までがその年の福男として認定される。女性も参加でき、先着5000人には「開門神事参拝之証」が配布される。