伊勢崎商の矢内拓磨三塁コーチャー(3年)が好判断で、逆転勝利をたぐり寄せた。1点を追う8回1死二塁、4番の小池琉七外野手(3年)が左前打を放つと、矢内は左腕を全力で回した。「判断に迷いました」。間一髪のセーフで同点に追いついた。その後も2点を追加し、逆転で勝利をもぎ取った。ベンチに戻ると「ナイス判断!」「回してくれてありがとう」とチームメートに声をかけられた。今まで野球ができなかった歯がゆさを吹き飛ばす瞬間だった。

矢内は腰のけがで1年冬、選手を引退した。椎間板ヘルニアで、座っているだけでも痛みに襲われた。冬の厳しいトレーニング期間、ほとんど参加できず、思い悩んだ。「つらい思いをしている仲間を差し置いて、楽な思いをしている自分が試合に出るのは違うんじゃないか」。学生コーチとしてチームを支える立場に回った。

新チームになった昨秋から三塁コーチャーを務める。「最初は判断に迷ってチームメートから怒られることもあった」と振り返る。それでもこの日、一瞬の好判断で勝利に貢献した矢内は「すっごくうれしい」と笑みをこぼした。【小早川宗一郎】