春夏1度ずつの甲子園出場歴がある上宮太子の名ノッカー、音野峻弥(たかや、3年)はこの日もチームのためにバットを振った。

試合前、主将・渡辺公之助外野手(3年)の号令とともに勢いよく駆けて各ポジションに散ったナイン。ホームベース付近にはサブノッカーとして登録されている音野の姿があった。「行くぞ!」。そう叫ぶと、ゴロに強弱をつけ、野手が足を使って打球を追えるようコースを狙うノックが飛んでいった。フライで風の状況を知ってもらうことも大切だ。1球1球に意思を持って丁寧に打ち分けている。

音野は中学1年の春に右足に骨肉腫を患い、走ることが困難になったために選手を断念した。日野利久監督(52)は「中学時代を知っているわけではないが、弱いところもしんどい様子も見せないし、休憩も自分からは決して取らない。こちらが思っている以上に選手のことを見ている。チームの中心的存在です」と全幅の信頼を寄せている。今年からはバッティングの指導も積極的に行うようになり、学生コーチとしてチームに貢献している。

上宮太子は昨秋の県大会を不祥事で出場辞退しており、この代替大会が「初めての公式戦」といえる。チームは美原を3安打に抑えて完封、攻めては13安打で10点を挙げて、5回コールド勝ちを納めた。音野の「行くぞ!」で始まる上宮太子の戦いはまだまだ続く。【関野真佑】