山形県人の絆リレーで今大会東北勢唯一の「聖地1勝」を挙げた。41年ぶりのセンバツに選出された鶴岡東(山形)が、日本航空石川との「県独自大会優勝校対決」を5-3で競り勝った。先発した変則左腕の阿部駿介が7回7奪三振3失点(自責2)で試合を作り、エース右腕の太田陽都は2回無失点で締めた。勝っても負けても終わりの甲子園。同郷の3年生2人が勝利のタスキをつないだ。

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2点リードの最終回2死満塁。太田は一打逆転のピンチを二ゴロに打ち取り、笑顔で整列に向かった。「(阿部から)リードした展開で引き継いだので、0で抑えたかった。甲子園で投げられたことは、今後の財産になります」と声を弾ませた。先発阿部は、1年の冬から取り組んできた横手投げに、時折上手からの90キロ台カーブなどで打者を手玉に取った。決め球のスライダーは左打者の膝元に集まり、効果は抜群。7回3失点でラストゲームの大役を果たし「目の前のバッターに集中して、自信になる投球ができた」と汗をぬぐった。

山形県出身の2人。常日頃からの仲良しコンビだ。今夏の県独自大会、東北大会の宿舎は同部屋で時間を共有。野球の話は一切せず、日常的な会話を楽しんだ。太田は「阿部じゃないと嫌ですね(笑い)。落ち着きというか、安心感があるんです」。部員数は99人の大所帯。7割近くが県外出身者で同郷の結束力は固い。「阿部の好投で自分も気持ちが入った。2人で投げられて思い出になりました」と忘れられない日になった。

太田はチーム内で「ジャイアン」と親しまれている。チーム一の大食漢で、遠征先などでは食卓に並んだ仲間の分まで残さず食べ尽くす。愛称通り野球も豪快そのもの。入学直後のケガ中も、通称・鉄バットと呼んでいる長さ約30センチの2キロの重りを毎日1000回以上振って鍛えた。ケガ明けの練習試合の初打席で場外弾を放ち、知り合ったばかりのチームメートに「怪物だ」と言わしめた。甲子園でも豪快さは健在。大舞台で自己最速を更新する143キロを計測した。背番号1は最後まで、堂々たる姿だった。

太田の兄海都さん(富士大4年)も同校OBで、16年は背番号1で甲子園に臨むも、右肘の故障で出場機会はなかった。太田は「試合前日に兄から『楽しんで来いよ』とメッセージをもらった。兄の分まで楽しめました」。「特別な夏」にかなった兄弟の夢。確かな記憶を残して、高校野球に幕を下ろした。【佐藤究】