快腕の春が終わった。天理(奈良)のエース達孝太投手(3年)が左脇腹を痛めた影響で、準決勝・東海大相模(神奈川)戦の登板を回避した。先発した仲川一平投手(3年)が8回1失点と奮闘も、打線が石田隼都投手(3年)に完封された。明豊(大分)は中京大中京(愛知)に競り勝ち、同校初の決勝進出。中京大中京のエース畔柳亨丞(くろやなぎ・きょうすけ)投手(3年)は救援登板も、右腕の不調で力尽きた。決勝は4月1日午後0時半から行われる。

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最速148キロ右腕、達の春は、まさかの幕切れだった。29日仙台育英戦での左脇腹負傷が判明し、登板を回避。先発仲川に「頑張ってこい。楽しめよ」と託した。8回1失点と力投する仲川ら仲間の奮闘を、ベンチで見守った。

暗転したのは29日の試合後。達は「試合中はまったく気づかなかった。痛くて何でやろと。(3回の)バント処理で滑ってしまった」と明かす。30日夜に登板回避を決めた中村良二監督(52)は「肘や肩は何の問題もない。『どうだ』と聞けば『行きます』と言ったかもしれない。脇腹は本当に怖い。これでよかった」と話した。エース不在を埋めようと、全員が一丸となって戦った。

25日高崎健康福祉大高崎戦は2安打完封。29日も今大会最多の164球で、3戦合計459球の力投だった。達は「今だけ見て野球をすれば全然、投げられる。1日でも長く野球をすることを考えたら今日は投げるべきではない自分の判断。メジャーリーガーという目標がある」と言った。自重し、将来につないだ。

目標を追うひたむきさこそ、達の最大の長所だろう。中学では控え投手。父等さん(44)に「夢を口に出しなさい」と言われ続けた。卒業文集で「23歳~25歳くらいでアメリカの球団と5年100億円の大型契約をして」と人生設計を書いた。まだ始まったばかり。今大会も「自分の投球を思ったよりできなかった」と辛口だ。夏、そしてその先へ。仲間と戦う達の前に、道は広がる。【酒井俊作】

▽天理・瀬(石田に2三振など3打数無安打で涙)「自分の力不足。しっかり腕を振ってきている。真っすぐと変化球のキレ、両方良かった。少し苦しかった」

▽天理・内山(主将として3安打完封負けに)「向こうの方が力が上。達がいるので(仲川は)先発する機会は少ないけど、堂々としていて、頼もしかった」

▽天理・仲川(8回1失点力投)「達がここまで1人で投げてきて苦しかったと思う。自分が投げて抑える気持ちだった。低めの変化球をしっかり投げられた」

○…家族も奮闘を見守った。達が大リーガーの夢に目覚めたのは中学2年時。元近鉄の覚前昌也氏の野球塾に入り、ロイヤルズとマイナー契約し日本人最年少の当時16歳でメジャー挑戦を決めた結城海斗とブルペンで投げた。球威の差は歴然。「僕より小さいのにいい球を投げる」と悔しがった。社会人軟式野球ドウシシャの監督を6年務めた父等さんは「子どもと同じ夢を見られるのはいい」とうなずいた。