「遅咲きの桜」が6月に満開を迎えた。ノースアジア大明桜は秋田中央に3-2で競り勝ち、2年ぶり15度目の春の王者に輝いた。遊撃手との「二刀流」で最速141キロを誇る兄の石田一斗(いっと)投手(3年)が、138球の熱投で2失点(自責1)完投。8回を除き毎回の11奪三振をマークした。弟の石田恋内野手(2年)は2点を追う7回に反撃の適時打。同点の8回には4番真柴育夢(はぐむ)内野手(3年)が勝ち越し打を決めた。コロナ禍で2週間遅れでスタートした大会は、明桜の優勝で幕を閉じた。

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THIS IS IT! 大阪出身でチーム1のエンターテイナー、石田一斗はマウンドでマイケル・ジャクソンばりの存在感を発揮した。3回に3者連続三振を奪うなど、6回まで走者を出しながらテンポ良く抑え、今大会19イニング連続で無失点を続けた。しかし、7回、先頭に二塁打を浴びると、1死後に左越え二塁打で均衡を破られた。「真柴や風間が絶対に打ってくれると思っていたので、負ける気はしなかった」。外角、内角をバランス良く攻め、得意のスライダーを軸に立ち向かった。

同回には二塁手の弟・石田恋が失策を記録。その間に追加点を奪われた。「弟がエラーをするのはいつものこと。正直むかついたが、むかついても意味がないので、ギアを1段階上げて抑えました」。8、9回はいずれも得点圏に走者を背負う展開も、得点は許さなかった。バットでは8回に三塁打を放ち、真柴の勝ち越し打を呼び込んだ。石田一は今大会で抜群の安定感を発揮し、3試合で計22回2失点。最速153キロ右腕、風間球打(きゅうた、3年)と投手陣を支えた。

守備のミスを取り返した。恋は0-2の7回1死二塁から反撃の適時打。「兄貴がカバーしてくれたので、絶対に打とうと勝負した結果がタイムリーになった」。3回の第1打席に今大会4戦目で初安打。その勢いをつなげた。「自分が明桜を選んだ理由は兄貴がここにいて、同じチームで甲子園に出たいという夢があったから」と言う。

石田兄弟は大阪・羽曳野市出身で小中学校でも同じチームだった。父から野球を教わるとき、夕飯前のキャッチボール、素振りといつも一緒だった。一斗が登板しない試合は二遊間を形成。恋の帽子の裏には「心の繋がり」という言葉が記され、「兄貴と心をひとつにして、二遊間だし、2人で頑張っていこうという気持ちで書きました」と兄弟愛があふれている。

全国高校野球選手権秋田大会は1カ月後の7月9日に開幕。一斗は「自分たちは優勝して追いかけられる存在になったので、堂々とプレーしたい」。石田兄弟が「キング・オブ・球児」を決める甲子園へ二人三脚で歩む。【山田愛斗】

○…187センチの長身でエンゼルス大谷翔平に憧れる、4番真柴が8回に決勝打を放った。1死三塁、カウント1-0から中前へ適時打。「石田(一)が頑張っていたので、絶対にここで点を取り、9回のピッチングを楽にさせたいという気持ちだった。自分の一打が勝利につながり、うれしい」。前日7日の準決勝で7回無失点14奪三振と好投した風間は「5番右翼」で先発。この日は2安打を放ち、打者として貢献した。

 

○…秋田中央が復活の準優勝を果たした。アンダースローで80~110キロ台のボールを自在に操る湊優成投手(3年)が、12安打を浴びながらも粘って3失点完投。幼なじみで1年時に夏の甲子園を経験している野呂田漸(ぜん)捕手(3年)とのコンビで、明桜打線を苦しめた。湊は「6回までは目指してきた打たせて取るピッチングができたので、そこは夏に向けていい感触を得られた」と胸を張った。

昨秋は県大会初戦敗退を味わったが、今大会は準優勝。「自分たちでもここまで来られるとは思ってなかった。先を見ずに1戦必勝で戦った結果」。今春、同校OBの勝田慎監督(47)が就任したばかりだが、1カ月後の選手権秋田大会に向けて、湊のゲームメーク力、打線のつながりなど収穫は多かった。指揮官は「夏の目標は甲子園で校歌を歌うことしかないです」と力強く宣言した。