佐伯鶴城(大分)の渡辺正雄監督(49)が、3月まで率いた大分商を「秘密兵器」で撃破した。背番号11の日高義己投手(2年)が、約9割がスローカーブという超異例の配球で惑わせ、3失点完投した。

「どうせ直球は通用しない。体が小さい分、補わないといけない。大商戦のために監督から緩いカーブを磨けと言われていました。今日はうまくいきました」

身長167センチの左腕の独壇場だった。大分商の各打者が、縦に大きな弧を描く90キロ台の“魔球”に何度も腰砕けになった。

序盤は120キロ台の直球やスライダーも混ぜたが、2回に6点の援護をもらうと大胆さは増した。5回以降は何とすべてスローカーブ。「まさか完投できるとは。先輩に遊び心を持って投げろと言われたのがよかった」と感謝した。

相手を誰よりも知る渡辺監督の指示だ。4月の異動で佐伯鶴城の監督になるとすぐ、主力投手ではなかった日高にスローカーブの習得を命じた。気持ちのこもった振りをしてくる“教え子”には有効と確信していた。抽選会後すぐ、大分商戦の先発を告げた。就任以来言い続けたのは「もっと抜け」。試合中も「緩く、緩く」と念押しした。

指揮官は「彼らの性格も知っているし懸命に努力しているのも知っているから今日は複雑でした。でも勝負ですから」と口元を引き締めた。プロ注目の主砲、古川雄大外野手(3年)が注目されるチームにおいて、投手陣には異色のクセ者がいる。【柏原誠】

○…大分商がベスト8で敗れた。先発したエースの池田壮史朗投手(3年)が2回に一挙6失点と乱れた。その後持ち直しただけに悔いが残った。「力不足です。バックも支えてくれたのに、それに応えられなかった。相手のことは少し気になりました」と涙ながら振り返った。

佐伯鶴城の渡辺政雄監督(49)は3月まで自分たちの監督だった。「勝ち進めば準々決勝で当たると分かってから、ワクワクが止まらなかった。倒すことしか頭になかったけど、それが空回りして、変な力みになったかもしれない」。

4月に部長から監督になった長吉勇典監督(27)は「監督の差が出ました。選手に思い切り振らせた相手の監督と、迷わせてしまった監督と。今年の選手たちは力があったのに、導けずに申し訳ないです」と悔しさをあらわにした。

大分商は20年春のセンバツに選出されたが大会中止。その夏の交流試合で甲子園の土を踏んだ。夏の大分大会優勝は13年を最後に遠ざかっている。