兄の分まで戦った。錦城学園・大場龍之介内野手(3年)のユニホームの両膝には、真っ赤な血がにじんでいた。

0-5で迎えた7回、4番の大場は先頭で左中間を破る二塁打を放った。5番打者の2球目が暴投で、すかさず三塁を狙った。ヘッドスライディングでセーフ。両膝は、その時にできた傷だ。

無死一、三塁となり、森田永遠主将(3年)の適時打で生還。意地の1点を返した。「流れを作ろうと、チームに勢いを作ろうと思った。いい形で打てました。何とか勝ちたかったので、悔しいです」。

二卵性双生児の兄、大場慎之介投手(3年)は関東第一の野球部にいる。小学生で一緒に野球を始め、中学時代も足立ブラックキラーズでともにプレー。高校で初めて離れた。それぞれ厳しい練習を積んできた。兄弟だけどライバルのような関係。去年、練習試合では投手と打者として対戦。龍之介が安打を打った。次は「公式戦で対戦」が2人の目標だった。

左サイドスローの慎之介は、この夏は背番号11を着ける予定だった。しかし大会直前の7月上旬に、左上腕骨を投球骨折。実家に帰省してきた時に2人で話した。「自分が頑張ろうと、兄の分まで勝とうと思った」。最後の夏は、弟に託された。

この日の神宮は、第1試合が関東第一、2試合目に錦城学園だった。入れ替えのタイミングで、ネット越しに目が合った。「がんばれよ!」。拳を突き上げる兄の思いに、精いっぱい応えた。スパイクは、兄がくれたものを使った。サイズは同じ27センチ。「悔しいけど、最後まで頑張りました」。兄の思いも抱えて、神宮で目いっぱい戦った。【保坂恭子】