優勝候補筆頭の大阪桐蔭が、旭川大高(北北海道)との初戦を逆転で制した。

序盤で3点ビハインドを背負ったが、6回に海老根優大外野手(3年)が同点ソロ、7回には伊藤櫂人内野手(3年)が勝ち越しソロ。劣勢でも動じない「想定力」を生かし、松坂大輔を擁した97~98年の横浜(神奈川)しか達成していない秋春夏3連覇へ好発進した。日刊スポーツは今夏、大阪桐蔭の勝った試合は、「○○力」にスポットを当てる。

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あの大阪桐蔭が押された。最強軍団が初めて見せた姿だった。1回に先制された。2回は鈴木塁内野手(3年)が悪送球。首をかしげ、6回にも投げミスを犯した。堅守の遊撃手がうつむくと、声が飛んだ。「足、動かして、自分らしくやろうぜ」。二塁を守る主将、星子天真(てんま)内野手(3年)のエールだった。

この夏、初めて味わう劣勢だった。先制されたのは7月の大阪大会を通じて初めて。しかも先発川原嗣貴(しき)投手(3年)は3回に2ランを被弾し、3点追う展開に陥った。西谷浩一監督(52)も「どの大会も入りは難しい。向こうは攻めてくる。受ける形になってしまった」と話した。

指揮官は選手に言った。「しっかり組み直そう」。3回に2点をかえした。選手はベンチで口々に言った。「粘って粘って後半勝負やぞ」。池田のスライダーなどに苦戦したが冷静だった。「後半勝負」には根拠があった。バテる頃を一気に攻め落とす-。6回、浜風に乗った海老根の同点ソロが号砲だ。7回は伊藤の左翼へのアーチから4連打で3点。勝負を決めた。

「想定力」があるから、瀬戸際で踏ん張れる。海老根は言う。「初戦の難しさがある。ミスも起こる。ミスも頭に入れてやっています」。普段から失敗も織り込み済みでプレーしているから、浮足立たない。関係者は「エラーが出て、次、どうするかの声を掛けている」と明かす。誰かがミスをしても誰かが取り返す。「次は俺が捕るわ」。「次は俺が打つからな」。こんな声が当たり前のように出るのが22年世代の強みだ。

星子主将は「次の者がカバーしあうチーム」と胸を張る。昨秋の明治神宮大会で優勝。センバツも制した3月、西谷監督は言った。「高校野球は秋から春にかけて大きな山がある。いったん下りて、夏の違う山をしっかり登っていくことが大事」。秋春夏の3連覇は、怪物松坂を擁した97~98年の横浜しかなし得ていない。大阪桐蔭が“3つ目の頂”へ、力強く一歩を踏み出した。【酒井俊作】

○…今秋ドラフト候補の松尾汐恩(しおん)捕手(3年)は3安打2打点発進だ。0-3の3回2死一、二塁で一、二塁間を破り、チーム初打点。7回も適時二塁打でダメ押しの3点奪取に貢献した。「先に点を取られる形になったけど、どんな展開でも自分たちを信じてやると話し合ってきました」。センバツは準決勝・国学院久我山(東京)戦、決勝・近江(滋賀)戦で2試合連続アーチを放ち、持ち前の長打力を印象づけた。今夏も、最も注目される打者の1人だ。

○…川原が春夏連続でチームの“開幕投手を務め、8回を8安打3失点にまとめた。センバツの鳴門(徳島)戦は1失点完投。この日は序盤に3点を失ったが、4回以降は無失点で9回に別所につないだ。速球の最速は146キロをマーク。「夏は負けたら、積み上げてきたものがそこで終わる。なんとしても勝たないといけないと思って投げました」。打っても3回1死からのチーム初安打で反撃の2点につなげるなど、投打で勝利に貢献した。

▽大阪桐蔭・伊藤(7回に決勝ソロ)「結果的にホームランになっただけで、つないでいこうという思いで(打席に)入りました」