<高校野球神奈川大会:横浜商2-1大和南>◇14日◇2回戦

 延長11回、168球の熱投の末、横浜商に惜敗した大和南のエース久保田将光投手(3年)は晴れやかな表情だった。「もう2度と野球が出来ないと思っていたので、野球が出来てうれしかった。技術じゃなく、気持ちで投げました」。

 4月、福島第1原発から3・5キロの双葉から転校した。神奈川県内の大学に通う姉と横浜市内で暮らす。地元で頑張っている仲間がいるのに「野球をやっていいんだろうか」と思った時期もあった。だが、クラスの担任でもある賀沢進監督(54)からユニホームをもらうなど多くの人に支えられていると感じ、「ここで甲子園を目指そうと思った」。クラスでTシャツを作製した時には自ら「INAKAPPE」(いなかっぺ)と名前を入れるなど、持ち前の明るさで溶け込もうとした。賀沢監督は「方言でみんなを笑わせてますよ」。

 「Y校」と呼ばれる強豪との対戦では毎回のように走者を背負ったが、縦のカーブを軸に粘り強く投げた。福島から観戦に訪れた祖母の志賀美恵子さん(62)は「寒い中、避難先で高齢者にジャンパーを着せてあげた優しい子。感無量です」。母博美さん(42)は「息子が野球を続けられるということだけを希望に生活してきた。元気をもらいました」と目を潤ませた。

 甲子園で双葉と再会することが目標だった。「自分は負けちゃったけど、甲子園を目指してほしい」。今日15日に初戦を迎える双葉の仲間に思いをはせた。