<高校野球福島大会:浪江6-0湖南>◇14日◇1回戦

 浪江が湖南を下し、04年の喜多方東戦(9-2)以来、7年ぶりの勝利を挙げた。福島第1原発事故の影響で校舎に立ち入れず、部員16人は安達で授業を受けながら夏を目指した。4番佐藤大悟主将(3年)は、大会第1号となる2点ランニング本塁打を放った。

 待ち焦がれていた瞬間が、ついに訪れた。佐藤主将の脳裏に、4カ月間の出来事が走馬灯のようによみがえる。「やってきたことは間違っていなかった」。校歌を歌い終えて、心の底からそう思えた。

 震災後、安達で授業を受けながら練習をすることになった。だが、いわき市に居を移していた佐藤を含め、4人が通学できない。すると、紺野勇樹監督(29)が、二本松市の温泉旅館「陽日(ゆい)の郷(さと)あづま館」の一室を手配してくれた。10畳一間での共同生活は、4月下旬から始まった。15三振を奪って完封した志賀友輔(3年)は「気づくようになった」。親元を離れ、当たり前だったことの大変さに気付き、感謝するようになった。

 フェンスの向こう側には、2人の母がいた。同旅館のおかみの鈴木美砂子さん(59)は「気負いがあるんじゃないかと思ったけど、大丈夫でしたね」と、横断幕を持参して声援を送った。午前5時から弁当をこしらえ、練習終了に合わせて夕飯を準備するなど4人を支えてきた。12日には、佐藤の大好物の杏仁(あんにん)豆腐を用意。佐藤は「4人でも話すんです、第2の母だよなって。本当に感謝してる」と、大会第1号の先制弾で応えた。母美奈子さん(50)は「いろんな方に支えてもらった」と感謝した。

 佐藤の父実さん(51)は、福島第1原発で働く東電社員。今でも6勤3休で、最前線の業務にあたっている。息子には「迷惑かけて悪い。やりたいことを我慢せず、責任を持ってやれ」と、伝えてきた。そんな父を、佐藤は尊敬している。だから、目標の8強まで、負けるわけにはいかない。「また次、頑張ります」。そう言って、あの4人部屋に帰っていった。【今井恵太】