<全国高校野球選手権:日大三14-3日本文理>◇10日◇1回戦

 優勝候補の一角、日大三(西東京)が絶好のスタートを切った。全員19安打、夏の同校最多得点の14-3で日本文理(新潟)を圧倒した。重量打線の中、谷口雄大(ゆうた)外野手(3年)が50メートル走5秒9の俊足を生かし4打数4安打1四球4得点と全打席出塁。9番打者ながらリードオフマンの役割を果たした

 ガッチリ系の日大三の選手の中、176センチ、70キロと“やせ形”の谷口が重量打線を目覚めさせた。同点の5回だ。先頭打者としてフルカウントから5球ファウルで粘り、11球目を中前にはじき返した。力投型の相手に疲労を与えると、後続に快音が戻った。勝ち越しのホームを踏んだ谷口は「自分がかえすのではなく、ホームにかえるという気持ちです」。内野安打3本など全5打席出塁。7回には捕逸で一塁から三塁まで陥れる快足も見せた。

 例年全員が豪快な打撃を誇る同校。今年も高校通算本塁打合計118本のクリーンアップが際立つが、それだけではないことを証明した。やや打力の落ちる7、8番で打線が切れることを想定すれば、俊足の谷口が1、2番の役割ともなる。小倉全由監督(54)も「谷口、渋いな~。彼がいてくれるのは助かる」と貴重な存在に目を細めた。

 谷口は昨年8月14日、練習試合で顔面に死球を受け鼻骨など4カ所を骨折した。全治4カ月で2時間半の手術。約1週間入院した。病院で母有紀さん(45)と甲子園決勝の興南-東海大相模戦をテレビ観戦。「来年ここに行けたらいいね」と言われると、体がうずいた。2カ月安静ながら退院後に練習再開。キャッチャーマスクをかぶってバントし、恐怖感を克服した。

 今春センバツは2番で4強入りに貢献。だが帰京後「フライしか上がらなくなった」と調子を落とした。塁に出なければ、足は生かせない。当然スタメンも外れた。途中出場した西東京大会準決勝で二塁打を放ちきっかけをつかみ、決勝から9番でスタメン復帰した。腐らずに、午前5時半からの300スイングを畔上と続けた成果でもあった。

 5回に2ランを放った畔上は「苦しいときを知っている。打ってくれて本当に良かった」と喜んだ。破壊的打力の中に光った機動力。優勝した01年以来の2ケタ得点での初戦勝利と“吉兆”も加わり、日大三が悲願へ発進した。【清水智彦】