<高校野球岩手大会:花巻東12-0宮古水産>◇10日◇2回戦◇岩手県営

 やはり今夏も「ビッグ3」が注目だ。今秋ドラフトの目玉、花巻東・大谷翔平投手(3年)が、夏の初戦の初打席で本塁打を放った。2回戦宮古水産戦に「3番中堅」で出場。1回無死二、三塁で先制の3ランを右翼席に運び、高校通算本塁打を「56」に伸ばした。最速151キロの投手としてだけでなく、打者としてもプロから高く評価されている怪物。まずは打撃で活躍し、3度目の甲子園に向けて好発進した。

 怪物の最後の夏は、快音とともに幕を開けた。1回無死二、三塁で回ってきた注目の初打席。1ボールからの2球目、今夏初スイングは、思いっきり力んで豪快に空を切った。続く3球目は打ち損じのファウル。2ボール2ストライクからの5球目は「タイミングが早くなってしまって、先っぽだった」が、打球は91・5メートル先の右翼フェンスポール際に飛び込んだ。初戦から日米7球団のスカウトが詰め掛けた中、いきなり結果を出した。

 超高校級右腕は、打者としてもドラ1級の評価を受ける。センバツで優勝した大阪桐蔭・藤浪晋太郎(3年)から本塁打を放って4カ月弱。春の公式戦は、打率4割8分6厘、4本塁打と打ちまくった。脅威を感じ、三塁手を外野に回す「大谷シフト」を敷くチームも現れた。この日も、左翼手と中堅手が大幅に右へ寄っており、1死一、二塁で迎えた第2打席で敬遠された。今後も勝負を避けられる可能性があるが「後ろを信頼しているし、甘い球を逃さずに打ちたい」。それを実行できるだけの雰囲気が、打席内に漂う。

 高い適応能力が、怪物をさらなる高みへ導いた。昨秋から、重心が先端にある84センチのバットをチームでただ1人使用している。長距離打者向きで操作が難しいと言われるが、あっさりと使いこなせるようになった。ひと冬越えて10キロ増えた体重に比例するように、オーバーフェンスの打球も急増。高校通算本塁打数は、センバツで37本目を放ってから、4カ月弱で56本まで一気に伸びた。

 打撃で確かな自信を深めた一方、脳裏に残るのは不本意な結果に終わった投球だった。力みでフォームが崩れ、11四死球と荒れた大阪桐蔭戦。春は本来のしなやかなフォームを体に覚えさせ、夏に向けて練習試合で連投を重ねた。「下半身主導のフォームで、春よりだいぶ良い」と、登板を心待ちにする。必ずあそこに戻る-。だから、聖地の黒土は持って帰らなかった。

 昨夏は、左座骨結節の骨端線損傷の影響で万全ではなかった。大会直前の追い込み練習もできなかったが、今年は「ピッチング中心にできた」と表情も明るい。5日の誕生日の練習後、母加代子さんが届けてくれたプリン味のケーキが寮の自室に置いてあった。愛情のこもった好物を食べ、最後の夏に向けて英気を養った。初戦は2打数1安打3打点。「岩手から日本一」を実現すべく、マウンドで、そして打席でも結果を追い求める。【今井恵太】

 ◆大谷翔平(おおたに・しょうへい)1994年(平6)7月5日、岩手県水沢市(現奥州市)生まれ。姉体小2の時、水沢リトルで野球を始める。水沢南中では一関シニアに所属し、3年時に全国大会出場。花巻東では1年春から4番に座る。入学後は外野手で1年秋からエース。昨年は春夏秋の岩手県大会を完全制覇した。50メートル走6秒5。遠投120メートル。家族は両親、兄、姉。右投げ左打ち。193センチ、86キロ。血液型B。