<全国高校野球選手権:天理6-2鳥取城北>◇16日◇2回戦

 天理(奈良)がエース中谷佳太の10カ月ぶり完投で、春夏合わせて甲子園70勝目を挙げた。最後の打者を打ち取ると、ホッとした表情で仲間のもとに向かった。捕手の船曳からナインと、右手のグラブで次々にハイタッチ。「うれしいです。疲れました」。お立ち台で、表情は自然とほころんだ。

 3回まで走者を1人も出さない。4回に1点を失ったが、大きく崩れることがなかった。「後ろにいいピッチャーがいるので、行けるところまで行く」。決死の思いで投げた。9回は味方の失策などで1死三塁としたが、ここも最少失点。9回を投げきったのは、昨年10月の近畿大会1回戦以来だった。

 今春センバツ初戦で登板中に腰の骨を骨折。再びボールを投げるまでには2カ月以上かかった。練習できない間は、打撃練習の補助やボールボーイを務めた。エースの立場だった男が、裏方を経験することで、考え方も変わった。

 「周りの景色がよく見えるようになった。応援してくれる人のこともよくわかるし、次のピッチャーや、バックを信じて投げられるようになりました」

 帽子のつばには3年生部員全員の名前と「チームのために」という言葉を書き込んだ。仲間のために、最後まで全力で腕を振った。

 実は因縁の一戦でもあった。生まれ育った鳥取代表とのゲーム。「ここで負けたら自分の2年半が無駄になる」。相手スタンドのかつての同級生にも見せつける一番の投球で、マウンドに立ち続けた。【山本大地】

 ◆中谷佳太(なかたに・けいた)1994年(平6)5月17日、鳥取県生まれ。小3の時、郡家西少年野球クラブで野球を始める。中学では鳥取クラウンで全国大会8強。天理では1年秋からベンチ入り。兄が3人いる。176センチ、72キロ。左投げ左打ち。