今オフのFA市場の動きは、メジャー史上でも記録的なスローペースだという。MLB公式サイトが発表したFA選手トップ10のうち、年が明ける前に所属先が決まったのは2選手のみ。今オフFAの選手約250人のうち、キャンプイン40日前の時点で所属先が決まっているのは85人(うち4人が日本または韓国の球団と契約)と、約3分の1しかいない。

 米スポーツサイトでは、市場がスローペースになっている要因をさまざまに分析する記事が目につく。複数の記事や名物野球記者の分析を総合すると、次の「5つの要因」が浮かび上がってくる。

<1>昨今のデータ重視の若手GMが、極力リスクを排除したチーム編成を行っている。

<2>資金力がありすでに高額の総年俸を抱えている球団が、来季のぜいたく税回避を目指しているため節約方針。

<3>ダルビッシュ(ドジャースFA)ら大物FAが動かないため、下のランクのFA選手も余計に動けないという連鎖。

<4>時間をかけて待つ戦法を好む大物代理人スコット・ボラス氏が、今オフのトップFA選手10人のうち約半数を担当。

<5>来オフのFA市場にナショナルズのハーパー外野手やドジャースのカーショー投手ら多数の大物選手が出るため、今オフは静観する傾向。

 この他、最近は球団が傘下マイナーに有望な若手を多数抱えておく傾向が強く、それによってトレードで大物選手と交換しやすくなっているため、戦力補強にFA選手を獲得する以外の選択肢が広がったのも、市場の動きを鈍くしている一因ではないだろうか。他に選択肢があるため、FA市場で無理をする必要が少なくなっている。

 またブルージェイズのロス・アトキンスGMは地元メディアにこんな話をしている。「球団同士の交渉は、昔はGM同士の間でしか行われなかったが、今は違う。GM30人だけの話ではなく、編成にかかわる人がMLB全体に30×30ほどいる。人数が多い分、球団内部でも綿密に話し合いを重ねるし、球団対球団でもそれは同じだ」。会議や情報交換に多くの時間を費やす昨今のフロントのやり方が、スローな動きにつながっているというのだ。

 こうして市場のスローペースの要因は実に複合的なものになっており、いくつかの要因は今オフに限ったことではなく、来年以降も続く可能性がある。一部の超大物FA選手はスローペース傾向に影響を受けないかもしれないが、その他の選手への影響は変わらないだろう。USAトゥデー紙の大御所記者ボブ・ナイチンゲール氏も、自身の記事の中で「今のMLBは、名門アイビーリーグを卒業したエリートたちによって運営、編成される新時代に入っている」と指摘している。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)