昨年、米大リーグのドラフト会議でブレーブスから1巡目指名を受けたカーター・スチュワート投手(左から2人目)(MLB提供・ゲッティ=共同)
昨年、米大リーグのドラフト会議でブレーブスから1巡目指名を受けたカーター・スチュワート投手(左から2人目)(MLB提供・ゲッティ=共同)

昨年ドラフト1巡目(全体8位)で今年もドラフト上位指名が確実視されていたカーター・スチュワート投手(19=東フロリダ州立短大)の日本球界入りが米国を驚かせている。ただし批判的な意見よりも、その決断をむしろ支持する声が多く、米国野球ファンから応援の声が集まっている。米国ツイッターユーザーの間では「これで野球界を変えられる。スチュワートにとっても良かった」「とても素晴らしい挑戦だ。賢い決断だよ」「最高だね。MLBオーナーらはこれが当たり前にならないよう慌てて対策を練るだろうね」といった意見が多い。

スチュワートの決断が米国で好意的に受け取られている背景には、ドラフト入団選手に対する厳格な契約金規制やマイナー選手の格安賃金、球団の裁量で選手のFA時期を引き延ばせるシステムの存在などがある。選手にとって不利な面が多いそれらの制度に対し、疑問に思っている世間の人が米国に多いということだ。

マイナー選手の給料は、最低レベルで月額1100ドル(約12万1000円)。しかもオフシーズンと春のキャンプ中は支給されない。この少ない給料では住居費と食費といった最低限必要な支出をまかなうのも大変で、3寝室付きのアパートに選手6人で共同生活をするのは当たり前、中には3寝室を8人でシェアをするケースもあるという。

米国の一般社会では近年、最低賃金が急激に上昇しており、時給15ドル(約1650円)が当たり前になっているが、マイナーリーグだけは国の最低賃金規定から除外され、練習と試合にどれだけ長時間を費やそうと残業代ももちろん出ない。複数のマイナー選手が球団経営側を相手取り訴訟を起こす騒動もあったが、状況はほとんど変わらず。今季、ブルージェイズがマイナー選手の給料を50%上げることに決めているが、他球団がそれに追随する動きはまだ出ておらず、マイナー選手の生活の質向上は遠い道のりという印象だ。

球団によるFA時期の引き延ばしは、メジャーではもはや常態化している。FAになるにはメジャーで6年プレーしなければならないが、1シーズン187日間のうち172日間在籍しなければ1年と換算されないため、開幕からではなく時期を遅らせて昇格させ、FA時期を先延ばしさせるというわけだ。今季も、ブルージェイズの大注目株ゲレロ内野手が、開幕前からメジャー昇格即活躍間違いなしと評されていたにもかかわらず、4月26日にようやく初昇格させ、物議を醸した。

こうしたことに疑問を抱く米国野球ファンは、スチュワートのソフトバンク入りを後押しし、今後を興味津々で見守っている。スチュワートのおかげで米国野球ファンの間でNPBへの注目も高まっており、今後はかつてないレベルの関心が寄せられることになりそうだ。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

カーター・スチュワート投手(ゲッティ=共同)
カーター・スチュワート投手(ゲッティ=共同)