レッズが秋山翔吾外野手(31)を獲得し、メジャー全30球団に日本人選手所属が達成された。

これまで唯一、日本人選手を獲得してこなかった同球団が、アジアでのスカウティングを徹底強化したのは16年からだった。ちょうどディック・ウィリアムズ編成本部長が現在の役職に昇格し、編成トップになったときだ。環太平洋担当スカウトを2人配備し、編成本部長自らが来日したこともあった。

17年に日本ハムからポスティングシステムで移籍を目指した大谷翔平投手(25=エンゼルス)の獲得にも熱心だった。入団先の最終候補には残らなかったものの、時間と労力を使って丁寧に作成した豪華な球団プレゼンテーション資料を大谷側に提出。同編成本部長はのちにその資料を公開し、いかに本気で獲得に動いていたかをファンに示した。そうアピールすることで、今後も日本の市場参入を諦めないという意思表示をしたわけだ。昨季途中には、カブスから自由契約になった田沢純一投手(33)を2年という異例の複数年でマイナー契約し、さらに秋山獲得へとつなげた。

同編成本部長は今、さまざまな面でチーム改革にチャレンジしている。昨今のメジャーに広がるデータ活用に関してもそうで、昨年には最先端データ分析を駆使した野球トレーニング施設「ドライブライン・ベースボール」の創設者カイル・ボディ氏をマイナーの投手コーディネーターとして球団に迎え入れた。

それからまだ数カ月だが、ボディ氏によって育成システムは激変。コーチが選手にどう指導しているかをデータにするため、練習やミーティングなどをすべてビデオに収録し、ハイテク機器を使ってそれを文書データに変換し、どんな指導が何に役立ったかを分析し、効率的な育成を行っているという。

レッズはオハイオ州シンシナティという米中部の小規模都市に本拠地を置く、いわゆる「スモールマーケット・チーム」だが、秋山獲得や最先端のデータ活用によって、球団はそんなスモールマーケットのチームにありがちな保守的で冒険をしないというイメージからの脱却を遂げているのではないかと思う。

秋山を獲得したことは、日本のファンにもアピールする国際的なチームに変わろうという意思の現れでもある。ウィリアムズ編成本部長はもともとは投資銀行から球団営業部に入り、営業本部長にまで上り詰めてから編成に移った。最先端なものを積極的に取り入れビジネス感覚にも優れた編成トップが、スモールマーケット・チームの殻を打ち破っていく様子は興味深いし、今後も注目したくなる。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

秋山翔吾(2019年6月21日撮影)
秋山翔吾(2019年6月21日撮影)