現役メジャーの最速男、パドレスのメイソン・ミラー投手(27)が、開幕以来、快投を続け、救援投手として03年のエリック・ガニエ(ドジャース)以来となるサイ・ヤング賞候補に挙げられている。球団記録の連続無失点イニングは途切れたものの、メジャー最速となる平均球速101・3マイル(約163キロ=5月5日時点)の速球を維持。メジャー屈指の若き剛腕の素顔に迫った。

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現役最速男は、気さくで、屈託がなく、心優しい青年だった。試合前の練習終了後、ダッグアウト前で待ち構えていたファンに声を掛けられると、記念写真やサインに気軽に応じるだけでなく、数分間にわたって談笑。打者をねじ伏せる剛速球の「えげつなさ」とは正反対の、穏やかな27歳の素顔をのぞかせる。

3月のWBCに米国代表として出場した今季は、開幕から無敵の状態を維持してきた。4月9日には、時速103・4マイル(約166・4キロ)をマーク。開幕後、わずか6試合目の登板で、昨年のワイルドカードシリーズ第2戦で計測した自己最速104・5マイル(約168・1キロ)に迫る数字をたたき出した。今季初登板から4月19日までは11試合連続三振。その間、計34アウト中、27個を三振で奪う圧倒的な投球内容で、昨年8月6日以来の「ゼロ行進」をキープした。

記録に関して「クールなこと」と言う一方、いつか途切れることは分かっていた。4月27日のカブス戦。セーブ機会ではない4点リードの9回に登板。不運な安打などもあり、1回2失点と今季初めて失点し、連続無失点記録は、34回2/3でストップした。それでも、ミラーは、平然と言った。

「パドレスが勝つこと。1日が終わった時、それがすべてだよ」。

クローザーにとって最も大事なのは、自らのセーブ数を重ねること以上に、チームを勝利に導くことに尽きる。極論すれば、最悪、同点までなら許容範囲内で、相手に勝ち越させないことが重要ともいえる。

「また別のことが始まったというだけのこと。明日、新たなスタートを切るだけだよ」。

米国東部内陸部にあり、鉄鋼の街として知られるピッツバーグで生まれたミラーは、大のパイレーツファンとして育った。幼少期はいろいろなスポーツで遊ぶ普通の子供だった。その中で野球にはまったのも、パ軍の選手たちに憧れたからだった。AJバーネット、ゲリット・コール(現ヤンキース)らの剛球投手だけでなく、ジェイソン・ケンドール捕手、アンドリュー・マカッチェン(現レンジャーズ)らを見るため、「メジャーで最も美しい球場」と言われるPNCパークへ足しげく通った。

4歳から野球を始めた際は、当然のように「二刀流」だった。だが、「僕は打つよりも投げる方がいいみたい」と気がつき、投手に専念した。体格に恵まれたこともあり、いつしか、周囲の子供たちよりも速い球を投げられるようになっていた。「何でだろうね。とにかく全力で投げることしかできなかった。だからじゃないかな」。

大学時代の21年、初めて100マイル(約161キロ)を計測し、同年ドラフトでアスレチックスへ入団。当初は先発として期待された。実際、23年4月19日のデビュー戦では、先発として5回途中まで投げ、15球で100マイル以上をマークした。

ところが、4試合目の登板後、右肘の側副靱帯(じんたい)を痛め、戦列を離脱。首脳陣、医療スタッフらと話し合った結果、復帰後は救援投手に対置転換することが決まった。負担のかかる剛速球を持つ投手のジレンマが残る一方、今後の選手生命を考慮した結果、ミラー自身も納得して救援転向を決断した。

それまではカットボール、チェンジアップなど数種類の変化球も投げていたが、救援となって以降は、フォーシームとスライダーが9割以上と、投球スタイルを変えた。その結果、今季は三振率55%と驚異的な数字を残すだけでなく、四球率5%前後と、制球力も着実にアップした。

「95球、100球を投げるわけじゃない。ただ、試合の中で最も大事な3つのアウトを奪うのが仕事。目の前の打者を打ち取って、ダッグアウトに戻ることだけを考えているよ」。

メンタリティーだけでなく、日々のルーティンも大きく変わった。

「まずは今日のこと、もしくは明日のことまでぐらいのことしか考えないようになった。(先発のように)5日も先のことは考えられないからね」。

クローザーとしては、まだ3年目。伸びしろは、計り知れない。メジャーの歴代最速は、アルロディス・チャプマン投手(当時レッズ=現レッドソックス)が10年に記録した105・8マイル(約170・2キロ)。素質、思考とも、「天性のクローザー」とも言えるミラーが、今季、最速記録を更新し、大谷翔平、山本由伸ら先発陣を相手にサイ・ヤング賞を争ったとしても、何ら不思議はない。【四竈衛】

◆Mason Miller(メイソン・ミラー) 1998年8月24日、ペンシルベニア州ピッツバーグ生まれ。ガードナー・ウェブ大から21年ドラフト3巡目でアスレチックス入り。23年4月19日にメジャー初登板。昨年7月31日、パドレスへトレードで移籍した。今季年俸は400万ドル(約6億4000万円)。身長196センチ、体重90キロ。右投げ右打ち。

○…ミラーはこの日も圧倒的な投球を披露した。カージナルス戦で2点リードの9回、マウンドに上がると、2四球と振り逃げで満塁としながらも、アウトはすべて三振で奪った。1イニング4三振をマークし、12セーブ目を挙げた。最速は102.1マイル(164キロ)だった。