<ヤンキース6-4レイズ>◇16日(日本時間17日)◇ヤンキースタジアム

 【ニューヨーク=四竃衛、水次祥子】ヤンキース黒田博樹投手(37)がレイズ戦に先発し、メジャー5年目で自己最多となる14勝目(10敗)を挙げた。立ち上がりから快調に飛ばす「仮想プレーオフ」の投球で6回までに10三振を奪う力投だった。6回4安打4失点で交代し、2年連続の200投球回に到達。チームのア・リーグ東地区の単独首位キープに貢献した。

 気持ちは、プレーオフだった。マウンドに上がった黒田は、初回からアクセルを踏んだ。先頭ジェニングスの空振り三振を皮切りに、2回までの6アウトはすべて三振。絶対に先制点を与えない意識で、いきなりトップギアからスタートした。「三振が多すぎて自分でも気持ち悪かった。後半しんどくなるとは思ってましたが、行けるところまで行こうと思いました」。

 本来は、三振の山を築くタイプではなく、テンポ良くゴロを打たせて少ない球数で長いイニングを投げるのが身上。だが、この日は早い段階から速球系の走りが悪いことに気が付いていた。しかも、地区優勝争いのライバルでもあるレイズ相手に、1勝1敗で迎えた3連戦の最終戦。通常のゲームプランを一変させ、速球を見せ球に、序盤から徹底的にスライダーとフォークで押した。「いい球を使い切ってしまおうと」。敵にスキを与えない投球で流れをつかみ、3回裏の5点先制劇を呼び込んだ。

 もっとも、無我夢中で飛ばしたわけでもない。今季は球宴後、1試合平均で3・3点しか援護がないこともあり、この日のテーマを「チームが勝つこと」にしぼっていた。「ここまできたら内容ではない。勝てれば自分としては充実感があります」。この試合を含めて、残る公式戦の登板機会は3試合。これまで以上に気持ちを高ぶらせ、意図的に「仮想プレーオフ」の精神状態で登板したのも、今後のしびれる戦いをにらんだ上で計算ずくだった。

 しかも、今季30試合目で2年連続となる200投球回数を突破。ヤ軍移籍当時から掲げていた大きな目標のひとつをクリアした。「勝ち星よりも、チームに貢献できているかなと思います」。ローテーションの柱として、黙々と投げ続けてきたことに、少しだけ胸を張った。

 残り3週間。激しい地区優勝争いは続くものの、米国メディアの間では、早くもプレーオフの「開幕投手」として期待する声も聞こえてきた。試合後のジラルディ監督は、「その話題はもう少しあとにしてくれ」と笑ったが、実績、安定感ともチームでは随一。したたかにテストを終えた黒田が、今後もヤ軍の命運を握ることは間違いない。