初の開幕投手を務めた日本ハム大谷翔平投手(20)が、アクシデントを乗り越え白星スタートを切った。初回からこの日最速の159キロをマークするなど、5回2/3を投げ3安打1失点。6回途中で両ふくらはぎをつり降板したが、リードしたまま救援陣にバトンを渡し、大役を務め上げた。投打「二刀流」3年目は、07年ダルビッシュでも成し得なかった高卒3年目での開幕戦勝利で幕を開けた。

 記念のウイニングボールを、複雑な表情で受け取った。大谷は開幕戦で勝利を飾ったものの、両ふくらはぎがつった影響で6回途中で降板した。「早い回で降りてしまって申し訳ない。納得していない部分はあるけど、勝ててよかったです」。5回2/3、3安打1失点。大役の務めは果たしたが、悔しさも残った。

 異変は6回、92球目を投げた直後に起きた。両ふくらはぎに違和感が走った。「いけるかなと思ったけど…」。治療後、1度はマウンドに戻ったが、投球練習で厚沢投手コーチからストップがかかった。昨季も3度あった症状だった。

 だが2回に2つの四球などで無死満塁のピンチを背負いながら、犠飛による1失点でしのぎ、波に乗った。投球フォームのテンポ、配球を修正し、140キロ台のフォークを武器に、6回途中で6奪三振。最速159キロと持ち味は存分に発揮し、逆転勝利につなげた。

 長嶋茂雄氏の誕生日である2月20日に、手紙で開幕投手を伝えられた。「長嶋さんがつくってくれたものを翔平に受け継いでもらわなければいけない」。プレーだけではなく、振る舞いや言動も含めて、球界を担う選手になって欲しいという願いが込められていた。

 キャンプ直前には、都内の飲食店でイチローと会食した。初対面だった。たわいもない話から野球哲学まで、すべてが貴重な財産になった。「オーラがすごかった」。醸し出す雰囲気に、圧倒された。キャンプ中には野茂英雄氏とも会食。イベントで松井秀喜氏、ジーター氏とも言葉を交わした。かけがえのない時間が、道しるべとなった。

 投球フォームを微調整していたこともあり、オープン戦は苦しんだ。チームも引き分けを挟んで7連敗。札幌ドームの選手サロンでたまたま顔を合わせた栗山監督は、ゲキを飛ばす意味も込めて、声を掛けた。「翔平どうなってんだ! 大丈夫か?」。すると、大谷は真っすぐに視線を向け「監督、僕に任せてください」と言い切った。これまでなら苦笑いを浮かべるか、「がんばります」とばつが悪そうにしただろう。違う反応に指揮官も驚いた。

 不本意な白星かもしれないが、チームにも、今後の自身にとっても大きな勝利だ。「緊張したけど、それだけのところで投げられたのは幸せなこと」。スター選手になるために、階段をひとつ駆け上がった。【本間翼】

 ◆大谷の足がつるアクシデント 昨季の初登板だった4月3日ソフトバンク戦(ヤフオクドーム)の3回途中で右ふくらはぎがつった。治療後、再登板して3回を投げきったが、体調不良も重なり61球で大事を取って降板。6月11日巨人戦(札幌ドーム)でも7回途中、次戦の18日阪神戦(甲子園)では8回終了時、同じ箇所がつったためマウンドを降りている。その後、こむら返り対策として水分をこまめに摂取するウオーター・ローディングなどに取り組んだ。

 ▼20歳8カ月の大谷が初の開幕投手を白星で飾った。21歳未満の開幕投手が勝利を記録したのは86年津野(日本ハム=20歳7カ月)以来、29年ぶり。パ・リーグでは54年梶本(阪急)18歳11カ月、67年鈴木啓(近鉄)19歳6カ月、85年津野19歳8カ月、86年津野20歳7カ月に次いで5番目の年少勝利だ。大谷は13年8番右翼、14年3番右翼で開幕戦に先発出場。2リーグ制後、開幕戦に投手と野手の両方で先発出場は関根(近鉄)に次いで2人目。関根は51、53年に開幕投手を務め、野手で58~60、62~64年の6度先発出場した。