うれしさのあまり、動けなかった。同点に追いついた7回1死満塁。ヤクルトの新助っ人ミッチ・デニング外野手(26)は打球が右翼席に消えるのを見届けて走りだした。「手応えはあったけど、どういうリアクションをしていいか分からなくて…。打球を見てしまったよ。今までで最高のホームラン。本当にうれしい」。加入後初の本拠地アーチが値千金の2号グランドスラム。笑顔がはじけた。

 心は熱く、頭は冷静に-。四球後の2球目。高めに抜けたチェンジアップを逃さなかった。「必ず早いカウントでストライクを取りにくる。(初球の)同じ球を打ち損なったから、絶対打ってやろうと思った」とフルスイングで仕留めた。

 5月26日にBCリーグ・新潟から移籍し、出場は11試合目。まだ自分用のバットが間に合っておらず、今は同僚森岡のバットを借りている。長さが同じ34インチで、グリップの形状も似ていたことから使用しているが、7回の打席は素材だけ異なるモデルで臨んだ。「(凡退した前3打席は)ちょっと軽いアッシュだった分、早めにバットが出てしまっていた。ヘッドが残るように、重めのメープルにしてみようと思ったんだ」。重さにして約10グラム。たとえ“借り物”でも、自分の感覚にこだわる一面も結果につながった。

 そのバットの持ち主、森岡とはロッカーが隣。普段も冗談を飛ばし合う仲で、5月下旬の福岡遠征では、通訳抜きでもつ鍋を囲んだ。「みんなとそういう関係を築けているかなと思う」と、チームの雰囲気にもなじんでいる。

 自分モデルのバットは今週末にも届く予定で「クリスマスプレゼントを待つ気分だね」といたずらっぽく笑った。年俸360万円の“格安”助っ人が浮上への救世主になる。【佐竹実】

 ◆ミッチ・デニング 1988年8月17日、オーストラリア生まれ。05年レッドソックスと契約し、傘下のマイナー球団やオーストラリアでプレー。09、13年WBCオーストラリア代表。13年途中からルートインBCリーグ・新潟に加わり、同年打率3割7分で首位打者。今年5月に推定年俸360万円でヤクルト入団。同26日の日本ハム戦でデビューし、11試合で36打数10安打(打率2割7分8厘)、2本塁打、9打点。187センチ、91キロ。右投げ左打ち。