「奇跡」の男が、大逆転優勝への「軌跡」を描いた。巨人脇谷亮太内野手(34)が、プロ初のサヨナラ本塁打を放った。延長10回、広島ジャクソンの直球を右翼席に運んだ。移籍後初アーチを、自身4度目のサヨナラ打で決めた。ベンチ裏では「奇跡!」と叫び、拳を握り締めた。勝利以外は首位広島にマジックが点灯する一戦を劇的勝利で制し、7ゲーム差に縮めた。

 誰も想像できない「奇跡」だった。高橋監督は「期待はしてたけど、何かをしてくれれば」とフワリと願いを込め、村田真ヘッドコーチは脇谷出塁後の作戦面をイメージ。阿部はベンチ裏で「打ってくれないかな~」と心の中で祈った。その最中だった。

 打った脇谷本人が「奇跡!」と振り返った放物線が右翼席に飛び込んだ。ホームベース手前でヘルメットを放り投げ、選手の輪の中心でもみくちゃにされた。「迷惑をかけっぱなしなので、なかなか正面から見られない時もあって…」。本当なら、一番にあの人の胸に飛び込みたかった。ベンチ前で一礼し、戻る途中。「パチン」。高橋監督からの祝福だった。

 脇谷 いつも通り、叱咤(しった)激励じゃないですけど…。

 言葉はなくとも、以心伝心の「師弟愛」だった。FA権を行使した昨オフ、古巣巨人からのオファーに復帰を決断した。人的補償で移籍した西武への恩義を感じながら、自主トレを共にし、現役引退と同時に監督就任を決めた指揮官への愛が上回った。決め手になった理由を「言葉は必要ないんです。監督の力になりたいだけ」と即答。結ばれた糸は固く、強かった。

 だから、起死回生の1発を放っても、申し訳なさが脳裏をよぎった。「何とかしたいと思って、毎日グラウンドに来てるんですけど、毎日毎日、悔しい思いをして。これで取り返せたとは思っていないです」と語気を強めた。

 引き分けでも、首位広島にマジックが点灯する一戦をサヨナラで制した。お立ち台で脇谷は「選手はまだ、諦めてません」と力強く宣言した。試合後、2体のジャビット人形をうれしそうに持ち帰った。「1体だと、2人の子供が取り合いになっちゃう。やっと、持ち帰れるよ」。前回のお立ち台を含め3体の人形とともに、自宅の玄関を開けた。【久保賢吾】

 ▼脇谷が延長10回にサヨナラ本塁打。巨人にとって今季113試合目で初めてサヨナラ本塁打が飛び出した。脇谷のサヨナラ安打は通算4本目だが、サヨナラ本塁打はプロ入り初めてになる。巨人の1-0サヨナラ本塁打は、93年6月9日篠塚がヤクルト戦で打って以来、23年ぶり8本目。今回のように延長で打った1-0サヨナラ本塁打は56年8月18日宮本、66年6月20日長嶋に次いで50年ぶり3本目だ。