プレーバック日刊スポーツ! 過去の9月12日付紙面を振り返ります。1994年の3面(東京版)はオリックスのイチローが、20歳で通算191本目となる安打を放ち、シーズン最多安打のプロ野球タイ記録を達成しました。ちなみに現在のプロ最多安打は、昨シーズン西武秋山翔吾外野手がマークした216安打。

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<オリックス14-3近鉄>◇1994年9月11日◇藤井寺

 オリックスのイチロー外野手(20=本名・鈴木一朗)は11日、今季通算191本目となる安打を放ち、シーズン最多安打のプロ野球タイ記録を達成した。イチロー外野手はこの日、藤井寺球場での近鉄24回戦で1回から4打席連続二塁打。藤村富美男選手(阪神)が1950年(昭25)にマークして以来、44年ぶり史上二人目の快記録に、一気に到達した。

 イチローは、ヒットに関するすべての記録を塗り替えてしまうかもしれない。わずか20歳の若者が、初代ミスタータイガース藤村富美男(阪神)の持つシーズン最多安打のプロ野球記録に並んだ。34歳で円熟期にあった「伝説の人」にプロ3年生が並びかけたのだ。イチローは「記録の実感はありませんねえ……。通過点ですから。引退間近ならともかく、まだ始まったばかりですから……」という。あくまでも冷静。44年前の記録に並んだことを、楽しんでいるようでもあった。

 初回、近鉄先発の高村から右へ二塁打したのを皮切りに、なんと4打席連続二塁打。最多安打のタイ記録だけでなく、史上7人目となる1試合4二塁打の日本タイ記録も達成した。「1、2打席目に理想的な打ち方ができ、4打席目まではその勢いで打てた」と話した。一気に二つの新記録を狙った残り2打席は凡退。自己初の1試合5安打も逃したが、「いいんじゃないですか」とまるで気にしていなかった。

 この日、自らも4安打した福良からは「たまには走者なしで打ちたいな」の冗談まで飛びだした。そうまで言わせる安打製造機ぶりだが、単にヒットが多いだけではない。実はリーグ3位の長距離砲だった。長打率(塁打数÷打数)を見ると、近鉄のブライアント、石井に次ぐ5割6分2厘の数字を残している。ダイエー秋山、西武清原よりも上なのだ。百メートル11秒2の俊足が単打を二塁打にしているといえるが、しっかりボールを捕らえている。当てるだけの打撃ではない。新井打撃コーチは「久しぶりに完ペきなスイングだった。これで200本は間違いない」と話した。

 仰木監督は「プレッシャーに負けない、自分の技術への自信が見える。新記録は東京ドーム(対日本ハム=14、15日)、200安打は神戸(16日から6連戦)やな」と、新記録達成の予告までしてみせた。イチローももちろんその気だ。この日の4安打で打率は3割9分5厘とし、バース(阪神)の持つシーズン最高打率3割8分9厘の更新はもちろん4割突破の期待が高まる。そして200安打まではあと9本だ。「それは、あと1、2本になったら意識するでしょう」。夢の数字が、一つずつイチローのものになっていく。

※記録や表記は当時のもの