心躍るメロディーが宜野座から聞こえない。キャンプも第2クールを終え、ある記者が「今年は普通の感じだな」とつぶやいた。その通りだ。金本阪神2年目は地に足をつけて進む。

 大盛り上がりだった「運動会」が消えた。昨年は第1、2クールの最終日にナインが対抗リレーを実施。徒競走BGMでおなじみの「クシコス・ポスト」が球場に流れ、ファンも喜んでいた。この光景が、今年は見られないのだ。金本監督も「アレ、キツいのよ。同じやるなら、キツい練習は楽しくやらないと」と話してきたように、体を追い込むには効果があるだろう。

 だが今年は現時点で採り入れていない。裏を返せば、超ハードメニューで歯を食いしばらなくてもいいくらい、選手の仕上がりが良好といえるだろう。キャンプインから3分の1を消化して目に見える故障者は現れなかった。初日から右膝関節炎で別メニューの糸井と子どもの事情で離脱したマテオを除けば、脱落者はゼロだ。キャンプ序盤はスポーツ紙に「リタイア1号」などと見出しが躍るが、阪神では死語になりつつある。

 綿密なプロジェクトがある。トレーナーの権田康徳は「フェニックス・リーグまで、さかのぼらないといけない。秋季キャンプでも鍛えたし、12月は台湾のウインターリーグと鳴尾浜に分かれた。野手だけでなく投手も、1月まで高山ら強化指定選手がトレーニングを継続した。それが基盤になっています」と説明。昨季終了後の10月からの4カ月間、地道に筋力トレーニングを重ねた成果だろう。

 今年もキャンプで工夫する。朝8時過ぎから行う筋トレだ。権田は「朝が一番、エネルギーがあります」と言う。もう1つ、理由があった。読谷村の宿舎から宜野座野球場まで小一時間かかる。宿舎で早朝から体を鍛えた後、移動中に休み、再びグラウンドで猛練習と、時間をうまく使う。「追い込み→休み→追い込み」の絶妙なサイクルを作った。これを続けていくことが大切だから、金本監督も「第1、第2クールはキツいだろうけど、きっちり詰めてやらせてくれ」と指示を出した。

 シーズンに響く故障のリスクをはらむ「運動会」からランクアップし、いまや「大人のキャンプ」に様変わりした。これも2年目の変化だ。コツコツと積み重ねる時間ほど、揺るがないものはない。(敬称略)

 ◆酒井俊作(さかい・しゅんさく)1979年(昭54)、鹿児島県生まれの京都市育ち。早大大学院から03年に入社し、阪神担当で2度の優勝を見届ける。広島担当3年間をへて再び虎番へ。昨年11月から遊軍。今年でプロ野球取材15年目に入る。趣味は韓流ドラマ、温泉巡り。

 ◆ツイッターのアカウントは @shunsakai89